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短編集  作者: かわ
一話完結
13/28

くしゃみ(ほのぼの)

ブログ短編

「ふぃ……ックチュンぅい」

「……何その親父みたいなくしゃみ」


 辛そうに鼻をグジュグジュ鳴らしている生徒その一へ向けたのは、気遣いの欠片も見えないそんな言葉。

 赤い目と鼻で人の気も知らないで、と恨みがましく睨まれても人の気だから知りませんとさらっと流す。


「どうでもいいけど感染すなよ」

「…感染りませんよ」

「何で…ああ、花粉症?」

「違います」

「じゃあ何そのくしゃみ鼻詰まり目の潤みは」


 間髪いれずに否定してきたのが生意気で、俺もすかさず問い返す。と、途端に生徒その一はぐうと唸って黙り込む。

 まあ、それまで対岸の火事でしかなかった症状にいざ自分が陥ると、事実を認めたくないという気持ちはわかる。

 が、俺がコイツをからかわない理由にはならない。

 我ながら大人気ないとは思いつつ、毛を逆立てた小動物のようなそいつで思う存分遊んでやろうと口元をニヤリと笑ませる。


「ああ、ああ。そんなに鼻赤くしてたんじゃトナカイだって逃げ出すんじゃないか?そしたらソリ引く奴がいなくなってサンタも子供もお先真っ暗だ。どうするお前、責任重大だぞ。まあでもお前が代わりにソリ引いてやれば問題ないか。でもなぁ、くしゃみばっかしてて煩い代役だとガキも起きちまってやっぱりサンタは大迷惑か。恨まれる前に早くその鼻治せよ自称健全者」

「先生こそ…ックシュ、その変な妄想いい加減にしとかないと、ズズッ、作詞した人に訴えられますよ…ッぶぇックシュンうぃ」

「わ、汚ねっ!おらティッシュ使えよホラ」


 ぐじゅんくしゅんグッチュンとくしゃみを連発する生徒その一。かみ過ぎたせいでいっそ哀れなほど真っ赤な鼻頭を晒すさまをみて、流石にこれ以上からかうのは気が引けた。


「…そういえば、三回連続のくしゃみは惚れられくしゃみって言うな」

 ズピズピ鼻を鳴らしながら、生徒その一が怪訝な顔で見上げてくる。

「昔からよく言うだろ。くしゃみ一回褒められて、二度目ふられて三に惚れられ、四度のくしゃみは間抜けの風邪引き…って」

「…そうなんですか?」

「地方によって微妙に違うらしいけどな。俺の田舎じゃそういったよ」

 と言う間に窓から風が吹き込み、つられてか再び連続してくしゃみの音が響く。その後に、

「先生と田舎ほど似合わない言葉ってないですよね」

 なんて可愛くないことを言う生徒その一に、ニーッコリ満面の笑みを向けてやる。

 大衆からの受けは良いがコイツにだけは怖いと称される笑みだ。

 狙い通りぴくりと顔を引き攣らせた生徒その一に、俺は満面の笑みのまま口を開いてやる。


「俺としたことが風邪気味の生徒に手伝いをさせちまっていたようだな。忙しいのは山々だが、間抜けならしょうがない。俺は職員室に戻るけど、そこの本片付け終えたらそのまま帰っていいからな」


 指差した机の上には積み重なり、崩れて更に積もった本の山。

 それを呆然と見ている生徒その一に気付かない振りをして準備室のドアを閉める。

 その背後から、

「鬼…」

 なんて呟きが聞こえた気がしないでもないが、その後盛大に響いたくしゃみの音に直ぐに掻き消されてしまった。


 職員室へは向かわず、学校付近の薬局への道筋を辿りつつ、花粉症用の薬を手渡してやったら生徒その一はどんな顔をするだろうかと想像してはほくそ笑まずにいられなかった。






(2008/03/15)

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