半身(シリアス)
ブログ短編
俺はお前が憎かった。
ただの一度もそう言わせないまま、お前は消えた。
「……なに?」
そう言ってこちらを向いたあいつの眉は、本人でも気付いていない程かすかに皴を寄せていた。
気付いていればきっとこちらを向かなかったはずだ。
だから、わざわざ指摘することはしない。
ただ、茶化すように
「泣いてるのかと思った」
そう、言うことだけ。
「ッは!なに言ってンのさ?寝言は口閉じて言ってよ」
「それじゃ喋れないだろう」
「聞きたくないって言ってんだってば」
眼が、堪えきれずといった風に眇められた。その途端、あ、と思う間もなく顔を背けられた。
骨ばった薄い肩は時折跳ね上がって震える。それを抑えるように強張ったままの背が酷く痛ましかった。
思わず抱きしめて、慰めて、思い切り俺の胸で泣かせてやりたくて手を伸ばす。けれどそれはあいつに届くより随分前に力をなくした。
他の誰でもない、俺にだけはあいつを慰めることはできない。
あいつも、そんなことは望んではいないことを向けられた背が雄弁に語っている。
俺にはどうしてもできないこと。
でも、
俺にしか、できないこと…
「ユウ」
意識して普段より軽くあいつを呼ぶ。
すると直ぐ様振り返る泣き濡れた顔。
それがどれ程俺を苛むか、あいつにはわからないだろう。
「なんて顔してんだよ」
「…ッだって……っ」
おいでと両腕を広げて見せれば泣き顔を更に歪めて飛び込んでくる。
ああ、
俺にはできないことを、お前はこんなにも容易くこなしてしまうのか。
「克ィ…っ」
泣き縋る佑斗を抱きしめながら、
俺の中で何かが粉々に砕ける音を、他人事のように聞いていた。
お前が憎かった。
同じ顔で
同じ声で
俺の欲しいものを平然と攫っていくお前が、涙が出るほど憎いと思った。
(2008/03/13)