月を掴んだ男の話
BARで隣に座っている男が語った。
「俺は昨日も月を掴んでいたんだぜ。」
突然の言葉に酔っ払いだろうと放っていると、男は真顔で私に詰め寄り言った。
「本当だとも!月は人が思っているより近くて、空に置いて見るよりも美しいんだ。」
「信用しないなら今からいってやるよ。」と勘定も払わず、えらい剣幕で外に出た。
「やれやれ。」と思いながらも私は後を追った。
男は消えていた。
30秒も経っていないにもかかわらずに。
私はさっきの話を思い出し空を見た。
するとどうだ。
美しい新月の一部が影になっているではないか。
丁度ひとがぶら下がっているように。
どうやったのかしらんと考えている内にBARのママが店から出てきた。
私はまんまと男の分の勘定を払わされたと言う話だ。