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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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【File.01】死者からのクエスト報告(4/5)

「ヒッ、ア、アァァァ……ッ!!」


エレーナの喉から、言葉にならない悲鳴が漏れた。

彼女の眼前、ギルドカウンターの木製の縁に、泥と黒血にまみれた少年剣士の右手がかけられた。爪は剥がれ、指の骨が露出している。その手が、ギチ、ギチ、と不快な音を立ててカウンターの表面を削りながら、肉体を内側へと引き上げようとする。


続いて、首が直角に折れた魔法使いの少女が、僧侶の少年が、次々とカウンターを乗り越え、彼女のテリトリーへと這い入ってきた。


カウンターの内側は、受付嬢にとっての聖域であり、冒険者から守られた安全な場所だったはずだ。だが今は、逃げ場のない処刑台へと変わっていた。


「く、来るな! 来ないで……ッ!」


エレーナは腰が抜けたまま、必死で尻餅をつきながら後退りする。背中が壁にぶつかった。もう逃げられない。

死臭が、彼女の全身を包み込む。冷気が、皮膚を刺すように凍らせる。


「わ、わかったわ! お金ね! お金が欲しいんでしょ!?」


パニックに陥ったエレーナは、混乱した頭で、自分がこれまで最も信じてきたものを思い出した。

彼女は震える手で、腰に下げていた革袋をひったくり、中身を死体たちに向かってぶち撒けた。


ガシャァァンッ!!


金貨、銀貨、大銀貨。

彼女が新人の命を売って、死体漁りの男から受け取ったばかりの『キックバック』が、床一面に散らばった。


「ほら! これあげる! 全部あげるから! 白金貨だって、私の隠し金庫にあるわ! だから、助けて、許して……ッ!」


床に散らばった金貨は、月明かりを浴びて、滑稽なほど美しく輝いていた。

だが。


ズルリ……、グチャッ……。


三体の死体は、床の金貨を文字通り『踏みにじって』進んできた。

彼らの足裏についた泥と血が、美しい金貨を黒く汚していく。

彼らの白濁した瞳は、床に転がる大金には一瞥もくれず、ただ真っ直ぐに、壁際に追い詰められたエレーナの肉体だけを見つめていた。


「ぼくたちが……、ほしかったのは……」


先頭の少年剣士が、肉の削げた口をゆっくりと開いた。

喉の奥から、複数の人間の声が混ざり合ったような、悍ましい重奏コーラスが響く。


「……お金、じゃない……」


エレーナの顔から、血の気が完全に引いた。

彼女の全財産を投げ打っても、この怪異を止めることはできない。


「お金じゃなくて、何……? 私は受付嬢よ! クエストを紹介しただけ! 他に何を出せっていうのよ!!」


醜い命乞いが、閉じられたギルドに虚しく響く。

少年剣士は、ゆっくりと、エレーナの目の前まで歩み寄ると、その血塗れの顔を彼女の顔に近づけた。

鼻が触れそうな距離。死臭が直接、エレーナの鼻腔に突き刺さる。


「……死体漁りの……男たちが……教えて、くれたよ……」


剣士の死体が、空気が漏れるような掠れた声で呟いた。


「僕らの肉を……喰らいながら……、教えてくれた……。……君が……、僕らを……『売った』って……」


「……ッ!?」


エレーナの心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。

彼女の悪行は、彼らに完全にバレていた。


(喰らいながら……? あの男たちが……?)


エレーナは、前回の夜、裏路地でキックバックを渡してきた死体漁りの男の怯えた顔を思い出した。

『あいつらの目、ひん剥かれたまま、ずっと俺たちを睨んでたんだ』


あの時、すでに男は……彼らの組織は……、この怨霊と化した新人たちによって、全員殺され、喰らわれていたのだ。

エレーナの元に現れた男は、彼らが彼女を油断させるために見せた、最期の幻影に過ぎなかったのかもしれない。


「……だ、から……、僕らも……、請求しに……来たんだ……」


剣士の死体の、骨が露出した右腕が、ゆっくりと持ち上がる。

その指先が、エレーナの美しい金髪へと伸びた。


「……クエストの……、『本当の報酬』を……」

「……ちょうだい……」

「……ちょうだい……」


後ろの二人が、壊れたオルゴールのように唱和する。

彼らが求める『本当の報酬』。

それは、金貨や銀貨ではない。

彼らが騙され、奪われ、失ったもの。


「……君の……、未来を……」

「……君の……、肉体を……」


「ヒッ、ヒギィィィッ!! やめ……やめてェェェッ!!」


エレーナが絶叫した瞬間。

少年剣士の血塗れの指が、彼女の金髪を掴み、そのまま力任せに引いた。


ブチブチブチッ!!


「アァァァァァァァァァァッ!!」


頭皮が引きちぎられる凄惨な音が、ギルドに響き渡った。

エレーナの悲鳴など無視し、剣士の死体は、毟り取った彼女の金髪を、自らのハゲ上がった頭皮へと、泥と血で無理やり『貼り付け』始めた。


「……うん。……いい、報酬だ……。……次は……」


首の折れた魔法使いの少女が、エレーナの顔に、その白濁した瞳を近づける。

少女の顔は、魔獣に噛み砕かれ、両目が潰れていた。


「……ねえ。……エレーナさん。……君の、綺麗な、目……。……かわりに……ちょうだい……?」


「いや……! いやぁぁぁぁぁッ!!」


エレーナの絶望的な叫びを最後に。

三体の死体が、彼女の全身を一斉に掴みかかった。


生きたまま、肉を毟られ、骨を砕かれ、自分たちの失ったパーツの代わりに『報酬』として取り込まれていく。

閉じられた冒険者ギルドには、深夜、誰に届くこともない、悪女の地獄のような悲鳴が、いつまでも、いつまでも響き渡っていた——。

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