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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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3/6

【File.01】死者からのクエスト報告(3/5)

ガァンッ!!


ひときわ大きな音が鳴り響き、内側から頑丈なカンヌキが掛かっていたはずの分厚い木扉が、いともたやすく内側へと弾け飛んだ。


ギィィィ……という蝶番の悲鳴と共に、深夜のギルドに外の風が流れ込んでくる。

いや、それはただの夜風ではない。

むせ返るような湿った泥の臭い。鉄を舐めたような生臭い血の臭い。そして、内臓が腐乱したような鼻をつく強烈な『死臭』だ。


「……だ、誰……っ!?」


カウンターの奥で尻餅をついたまま、エレーナは震える声で絞り出した。

月明かりに照らされたエントランスに、三つの影が立っていた。


「……エ、レーナ、さ……」


ズルッ、と。

先頭の影が、一歩、ギルドの中に足を踏み入れた。


「ひっ……!?」


エレーナは両手で口を覆い、喉の奥で悲鳴を飲み込んだ。

そこにいたのは、数日前に彼女自身が天使の笑顔で「嘆きの森」へと送り出した、あのうら若き少年剣士だった。

しかし、その姿はもはや人間と呼べるものではない。


真新しかったはずの鋼の鎧はひしゃげ、腹部のあたりが巨大な獣の顎で丸ごと抉り取られている。そこからはどす黒い赤色と、白濁した内臓がこぼれ落ちそうになっていた。

左腕は肩から先が引きちぎられ、だらりと垂れ下がった右腕の先には、折れ曲がった指で何かを大事そうに——それこそ骨が砕けるほど強く——握りしめている。


その後ろに続く二つの影。魔法使いの少女と、僧侶の少年も同様だった。

少女は首が不自然な方向に九十度折れ曲がり、少年は下半身が原型を留めないほどに噛み砕かれている。彼らは自らの足で歩いているのではない。目に見えない無数のどす黒い泥のような『怨念』の糸に操られ、無理やり肉体を動かされているような、悍ましく不自然な挙動だった。


「う、嘘でしょ……? なんで、生きて……いや、死んでるのに……っ!」


エレーナの頭の中で、先ほどの死体漁りの男の言葉がフラッシュバックする。

『あいつらの目、ひん剥かれたまま、ずっと俺たちを睨んでたんだ』


三人の死体の目は、瞬き一つせず、ただ真っ直ぐにエレーナだけを見据えていた。白濁した瞳孔の奥に、底知れぬ漆黒の恨みだけを宿して。


「く、来るな! 来ないで!!」


エレーナは恐怖で腰が抜けそうになるのを必死で堪え、這いつくばるようにして立ち上がると、スタッフルームの奥にある裏口へと走った。

いくら化け物でも、動きは遅い。裏口から外に出て衛兵を呼べば助かる。


しかし、真鍮のドアノブに手をかけた瞬間、彼女は絶望の底に突き落とされた。


「開かない……っ!? なんで!」


鍵がかかっているのではない。ドアノブ自体が、まるで熱せられたロウのようにドロドロに溶け出し、壁の石材と完全に一体化してしまったのだ。

パニックになったエレーナは、近くにあった椅子を持ち上げ、換気用の窓ガラスに向かって思い切り叩きつけた。


ガンッ!!


ガラスが割れる音はしなかった。外の景色を映していたはずの窓は、いつの間にか壁と同じ分厚い石造りに変化しており、椅子の方が木端微塵に砕け散った。


ギルドという空間全体が、完全に外界から遮断された『密室』と化していた。

これまでに彼女が何十人もの冒険者を騙し、死地に送ってきた果てに溜まりに溜まった『ド黒いカルマ』が、ついにギルドそのものを呪いの結界へと作り変えてしまったのだ。


——ズリッ……、グチャッ……、ズルリ……。


背後から、血と泥を引きずる音が着実に近づいてくる。

振り返ると、三人の死体はすでにフロアの中央まで進み出ていた。彼らが這いずるように進んだ跡には、黒黒とした血と肉片の轍が、一本の道のように続いている。


逃げ場はない。


「やめ……やめて……私じゃない! 私は悪くないわ!!」


エレーナはカウンターの内側の隅に追い詰められ、ガタガタと震えながら醜い言い訳を口走った。


「私はただ、クエストを紹介しただけよ! それを受けたのはあんたたちじゃない! 自分の弱さを棚に上げて、逆恨みしないでよ!!」


自分が騙したことなど棚に上げ、どこまでも自己中心的な言葉を喚き散らす。

だが、死体たちは止まらない。

彼らの耳には、もはや彼女の言い訳など届いていなかった。彼らを突き動かしているのは、ただ一つの強烈な未練と目的だけだ。


カウンターの前に辿り着いた少年剣士の死体は、ゆっくりと、折れ曲がった右腕を持ち上げた。


ドンッ!!


血まみれの手から、木製のカウンターに叩きつけられたもの。

それは、三枚の銀色のプレート。

——死体漁りの男が「消えていた」と言っていた、彼らの『ギルドタグ(身分証)』だった。


そして、タグと一緒に置かれたのは、禍々しい深紅の光を放つ一本の草。

エレーナが「適当な嘘」をついて採ってくるように命じた呪いの触媒、【啜り泣きの血草】だった。


『ヒィィ……ッ、ヒグッ……、アァァァ……』


死者の未練を限界まで吸い上げたその草は、まるで本当に意志を持っているかのようにドクン、ドクンと脈打ち、赤子の啜り泣くような悍ましい鳴き声を上げ始めた。


「クエスト……かんりょう……しました……」


下顎の半分が欠損した剣士の口から、空気が漏れるような掠れた声が響く。


「え、レーナ……さん。……ほうしゅう、ください……」

「ほうしゅう、ちょうだい……」

「ほうしゅう……」


後ろの二人も、壊れたオルゴールのように同じ言葉を繰り返す。

彼らは、ギルドのルールに則り、『クエストの報告』に来たのだ。絶対に帰れない死地から、わざわざ身分証と指定の品を持ち帰って。


「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」


エレーナが完全に理性を失い、獣のような悲鳴を上げたその時。


ズルリ、と。

少年剣士の血塗れの片腕が、カウンターの上へと伸びてきた。

続いて、首の折れた少女の腕が。僧侶の肉の削げた指が。


三体の死体は、木製のカウンターに爪を立て、ギギギ……と嫌な音を立てながら。

ゆっくりと、しかし確実に、絶望してへたり込むエレーナのいる内側へと這い上がり始めた——。

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