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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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【File.01】死者からのクエスト報告(1/5)

「はい、お疲れ様でした! こちらが今回の報酬になります。次も無理せず、安全第一で頑張ってくださいね!」


冒険者ギルドの第一窓口。

花が咲いたような愛らしい笑顔で金貨を渡す受付嬢のエレーナは、ギルド内でも「天使」と名高い人気者だった。

透き通るような金髪に、誰に対しても分け隔てなく接する優しい態度。血生臭い冒険者たちにとって、彼女の窓口はまさに砂漠のオアシスである。


「あ、あの……エレーナさん! 俺たち、ついに鉄級に上がれたんです! これもいつも親身にクエストを選んでくれたおかげで……!」


真新しい鋼の剣を腰に下げた、うら若き少年剣士が頬を赤らめて報告する。後ろに控える魔法使いの少女と僧侶の少年も、希望に満ちた目でエレーナを見つめていた。

まだ10代半ば。田舎から出てきたばかりの、初々しいスリーマンセル(三人組)だ。


「わぁっ、おめでとうございます! 皆さんなら絶対にやれるって信じてましたよ!」


パァァッと顔を輝かせたエレーナは、少しだけ声を潜め、彼らだけに聞こえるように身を乗り出した。


「実は……鉄級に上がったばかりの皆さんに、ぴったりの『特別な依頼』があるんです」

「と、特別な依頼……?」

「はい。市場には出回らない指名依頼です。場所はここから北にある『嘆きの森』。そこの奥深くに生えている【啜り泣きの血草すすりなきのちぐさ】という赤い薬草を採ってきてほしいんです。高位のポーションの材料になるんですけど、採取に行く人が少なくて……」


嘆きの森。

ギルドの公式記録では「初心者向けの浅い森」とされている。しかし、エレーナが地図で指し示した『奥深く』は、狂暴な魔獣が巣食う未調査の危険地帯だった。


「報酬はなんと、白金貨一枚です!」

「は、白金貨!? そんな大金……!」

「ええ。でも、皆さんならきっと大丈夫。私、皆さんの実力を誰よりも評価してますから。……内緒ですよ?」


ウィンクをして微笑むエレーナに、少年たちは完全に舞い上がった。

自分たちは特別扱いされている。ギルドの天使に期待されているのだ、と。

彼らは二つ返事で依頼書にサインをし、意気揚々とギルドを飛び出していった。


* * *


その様子を、ギルドの隅にある酒場スペースから静かに見つめる二つの影があった。


「いやぁ、あそこの受付嬢は本当に親切だな。あの新人たち、いきなり良い稼ぎ口をもらえたみたいで運がいい」


荷物を足元に置いた行商人の青年が、エールのジョッキを傾けながら呑気に笑う。

しかし、その向かいの席。

彼よりもずっと小柄な、二足歩行でふさふさの毛並みを持つ『猫人』の相棒は、ピクピクと耳を動かし、不機嫌そうに干物魚をかじっていた。


「……ふん。お前は本当に目が節穴だニャ。あの女の周り、ひどく淀んでるサ」

「え? 淀んでるって、何が?」

「……見えない『カルマ』の重さだニャ。それに、あの新人が向かった森……あそこから吹く風は、酷く濃い血の匂いがするサ」


猫人は金色に光る縦瞳孔の目で、エレーナのカウンターをじっと睨んだ。


「だいたい、【啜り泣きの血草】なんて真っ当な薬草じゃないニャ。あれは死者の血肉と『強烈な未練』を吸って育つ、呪いの触媒だニャ。……欲に目が眩むと、ロクなことにならないサ。ほら、厄介事に巻き込まれる前にとっととギルドを出るニャ」

「お、おい待てよ! まだエールが半分残って……!」


猫人は行商人のマントを引っ張り、そそくさとギルドを後にした。


* * *


新人パーティーと、奇妙な二人組が去った後の第一窓口。

エレーナは、手元の帳簿に『嘆きの森・クエスト受理』のスタンプをバンッと力強く押した。


その瞬間、先ほどまでの天使の面影は消え失せ、冷酷で浅ましい嘲笑が彼女の唇を歪めた。


「……バカなガキ共。白金貨一枚分の薬草採取なんて、あるわけないじゃない」


エレーナの裏の顔。

それは、死体漁りの悪党と結託し、装備の整った目ぼしい新人を『絶対に生還できない死地』へと送り込み、彼らの遺品を売りさばいて利益を貪る悪女だった。

真新しい鋼の剣に、仕立ての良いローブ。あの子たちの装備なら、死体漁りの業者からかなりのキックバック(裏金)が貰えるはずだ。


「これで……今年に入って二十二組目、ね。今月のボーナスも期待できそうだわ」


ふふっ、と笑い声を漏らした彼女は気づいていなかった。


彼女の足元。カウンターの下の床が、何十人もの若者を騙して死地に送ってきた『ド黒い悪意の蓄積』によって、物理的に冷気を放つほど呪詛を溜め込んでいることに。

そして、自分が適当な嘘をついて指定した【啜り泣きの血草】が……無惨に殺された者たちの魂を、強烈にこの現世へと縛り付ける最悪のアイテムであることに。


スタンプを押した依頼書のインクが、なぜか一瞬、どす黒い血のように滲んだ気がした。

エレーナは「気のせいね」と鼻で笑い、次の獲物を探して再び天使の笑顔を作った。

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