2話 信頼という押し付け
「われこそはー! ライダーいちごう! わるいやつをやっつける!」
「はっはっは! このジャッキー様に勝てるかな!」
ライダー一号は崖から飛び降り、見事に着地する。
続けざまに繰り出されるパンチに、ジャッキーは劣勢だ。
「はっ! はっ! せいやー!」
「ぐっ、やるな貴様!」
回し蹴りが膝元に直撃し、ジャッキーは無惨にも倒れる。
「ま、まいったー!」
「ふふふ。もうわるいことはしないことだな! とうっ!」
そう言い残して、ライダー一号は崖、もといブロックのおもちゃに飛び乗った。
「ふぅー……紗久、強いなあ」
「へへん! いつもトレーニングしてるもんね!」
「そっかそっか。これからも頑張るんだぞ〜!」
ヒーローごっこ。
孤児院ではよくある風景である。
時坂有人は十六歳、この孤児院の最年長であり、よく遊びの相手をしていた。
「あるとにい、つぎはね――」
「有人お兄ちゃん、いい?」
次なるヒーローになろうとする紗久を遮り、小学校高学年程の少女が有人に声をかけた。
「聖菜、どうした?」
「あのね、相談したいことがあるの」
もじもじと俯きながら話す。
有人はそんな聖菜の頭を撫でようとするが、やめる。
「…………兄ちゃん宿題残ってたんだった。あきこママにお話してみて、ごめん」
「……わかった」
納得していないように頷く聖菜を申し訳なさそうに見て、有人は自室に向かった。
「なにかあった?」
「あきこママ……最近ね、有人お兄ちゃんがお話聞いてくれないの」
「そっか……私でよければ聞くけれど、どう?」
ふるふると小さく首を振る聖菜。
それを見た明子は笑顔を崩さずに頭を撫でた。
「有人とお話してくるわね」
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《有人視点》
誰かの頼みを聞かなくなったのはいつからだろう。
いや、覚えている。忘れられる訳がない。
コンコン、とノックが聞こえた。
「有人、入るわよ」
「…………」
入ってきたのは明子ママだ。
幼い頃に両親を事故で失くして以来、ずっと育ててくれている存在だ。
「最近、どう?」
「……別に、普通だよ」
パーカーの紐を弄りながら答えた。
何を聞かれているのかは分かる。
「あなたは優しい子だよ、有人」
「そんなことない!」
叫んだ。
「優しいだなんて、取り繕うことなんていくらでもできるよ。でもそうやって自分に酔うから、失敗するんだ」
昔から、誰かを助けることは好きだった。
当たり前だと思っていた。
数少ない父と母の記憶。
「有人、困っている人がいたら助けてあげるんだ」
その言葉は、当たり前で、難しいことだ。
しかし、僕はそれを守っていたと思う。
明子ママは、僕が困っているといつでも助けてくれた。他の子達も、いつでも助けてあげていた。
そんな彼女を見習って、僕も誰かが困っていると手を差し伸べるようになった。
難しいことでも、頼まれると挑戦していた。
信頼は残酷だ。
誰かを信じるっていうのは、そいつが創り上げた理想像を信じるってことだ。
そいつが信じる誰かが、そんな凄い人で、頼れる人だとは限らない。
信じれば信じるほど、その理想像と現実のギャップに、双方が窒息していく。
「お父さんやお母さんも、誰かを助けようとして死んだって聞いた。正しいけど、僕は救われてない」
「有人、あなたの両親は…………あなたに幸せになって欲しいと願っていたのよ」
「だからって! ……親だって、誰だって、信じなければいいんだ。信じすぎるから、頼りすぎるから、失った時が辛いんだよ」
だから僕は、誰かの頼みを聞かなくなった。
救世主になんてなれない。なりたくもない。
「それでも、きっと有人は誰かを助ける時が来るわ。私はそう信じてる」
「…………」
立ち上がった。
ここに居たくない。なんだかそう思った。
呪いの言葉を掛けられた気がした。
僕は外に出た。
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一人になりたい時によく来る高台の公園。
そこからは、綺麗な夕日が見えていた。
昔から、その人がどんな気持ちでその言葉を発しているかがなんとなくわかった。
失敗もした。
けど、明子ママは本心であの言葉を発していた。
「それが嫌なんだよ……」
失望されたくない。
信頼されることで、失敗した時にガッカリされるのが嫌だ。
自分のせいになるのが嫌だ。
期待なんて、未来の僕を恨むための予約だ。
「くそぅ……」
ベンチに座りながら蹴飛ばした石が柵にガキンと当たる。
柵の先では、赤い夕日が沈もうとしていた。
心なしか、いつもと違う。白く光っているように見える。
「っ!?」
いや違う。気づけば、自分の周りが光っていた。
小さな公園いっぱいに広がる円の中に記号や文字のようなものが敷き詰められている。
ゲームやアニメで見たことがある。
これは魔法陣だ。
白い光を放つ魔法陣は、時折紫を含み、それが尋常でないことを教えてくる。
鼓膜を震わせるような低い唸りとともに、空間が歪んでいた。
「なんだよこれっ!」
気づいたところでどうすることも出来ない。
この魔法陣が何を表すのかなんてもちろん分からず、ただたじろぐことしか出来なかった。
魔法陣が更に青白く光った時、僕は公園から姿を消した。




