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世界転移ⁿ  作者: 尽野りお
第三次地上大戦編 第1章

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1話 白金の覚悟

 私、エイリーン・フォン・フレーダットは、フレーダット帝国の第二皇女だ。


 第二、ということはそう。私には姉がいる。

 髪色以外瓜二つだとよく言われる。私がプラチナブロンドで、姉は銀だ。


「どうしたの? ぼーっとして」


 姉、アイリスがキョトンとした顔を私に向ける。

 やりすぎない程度に煌びやかなベッドに腰かける姉は、まさに皇女、といった風貌だ。


 ソファーから立ち上がってアイリスの隣に座り、膝に後頭部からダイブする。


「ううん、なんでもない。姉様の髪が綺麗だなーって」


 アイリスはニコリと笑って私の髪を撫でる。


「エイリーンの髪はお母様のだけじゃなくて、お父様の金色も入っていて綺麗よ」


 鏡越しに見える私の髪は、アイリスの透き通るような銀髪とは少し違う。白銀の中に、父から受け継いだ淡い金が混じった、どこか冷たげな白金の色だ。

 自分ではあまり意識したことはないけれど、アイリスはこの色をとても気に入ってくれていた。


「うん……ありがとう」


 姉の態度は今までと変わらない。


 変わらないことは当たり前に聞こえるかもしれないが、アイリスは今、ある呪いの影響を受けている。


「体調に変わりはない?」

「もう……特に何もしなければ大丈夫だって言っているでしょう? 心配性なんだから」


 国で一番魔法に詳しい人物に聞いた。間違っているはずはない。


 アイリスは、呪いの影響から少しの運動で息が上がる。それに、魔法が使えなくなっている。


 死を招くものではない、らしい。

 それでも心配なものは心配だ。


 アイリスの呪いは、昔からではない。

 つい最近の話だ。


 一週間ほど前、三国大戦の終戦協定より千三百年を記念した、祝いの席での事件。


 三国の中でも一番の広大な領地を持つ、シルメイジア王国で式典は行われた。その後の会食中のことだ。


 隠居生活を送っていたが、百年に一度の式典ということで足を運んでいたフレーダット前皇帝、私の祖父が、会食の途中、王国の刺客に殺されたのである。

 長い同盟の期間を経て、警備も緩くなっていたのだ。


 現皇帝、父ムンガルドと、連合国の盟主マッキルなどは、命からがら逃げだしたものの、他数名、帝国の要人がその場で殺された。


 アイリスはその場で呪いを受けた。


 元々、活発な人ではない。

 でも思ったように動けない苦しさがあるのも間違いないと思う。


 起き上がってアイリスの手を握る。


「私がきっとどうにかするから」


 すると、アイリスは私を抱きしめた。


「ありがとうエイリーン。でも、あなたが傷つくのはもっと辛い。わかる?」

「うん……わかる」


 もちろん気持ちはわかる。

 ただ何もしなくても元に戻らないことも確かだ。


「もう夜も遅いわ。部屋で寝なさい、エイリーン」

「……うん。おやすみ、姉様」


 部屋を出ると広く長い廊下が続く。

 豪奢な窓からは月明かりが差している。

 今夜は月が大きい。


 窓の反対側の壁に、壮年の男が立っていた。


「……ずっとここにいたの?」

「エイリーン様の世話役でありますので」

「もうそれは聞き飽きたよ」


 歩き出す私に笑顔を向け、追いかけてくる。


 ヘリスは、物心着く前から私の世話役を担う男だ。


 過去に騎士団に所属、その後教師という異例な経歴を持つ彼だったが、その経験もあり、読み書きや武術、その他あらゆることを教えてくれた。


「戦争、始まっているのよね」


 件の事件の後、シルメイジア王国が挙兵した。という話を聞いた。


「そうですな……西の国境アバトではもう戦いが始まっているようです」


 帝国の戦力は決して軟弱ではない。むしろ強いと思う。

 騎士団や魔法師団は普段から訓練を欠かさないし、魔界と接する地に赴いて、魔物との実戦も経験している。


 しかし千年以上の平和を経て、唐突に始まった戦争。

 戦争には民も加わる。彼らはどうだろう。


 心の準備も出来ずに、訓練も不十分なまま駆り出されて、生きて帰れるだろうか。

 そんな戦力で、恐らく準備してきたであろう王国に勝てるのだろうか。


「ヘリス……私、戦場に行こうと思う」


 幼い頃から、様々な訓練を積んできた。

 剣も魔法も、騎士団や魔法師団でも通用するレベルにはなっている自負がある。


 私が参戦することで、少しは犠牲を減らせるのではないだろうか。


 それに、アイリスのこともある。

 戦場で王国軍と対峙すれば、解呪のキッカケを得られるかもしれない。


「それはなりません」


 ピシャッと言い切るヘリス。


「なぜ?」

「……エイリーン様のお気持ちは分かりますが、今帝国軍は父君ムンガルド陛下をはじめ、帝国を守るために戦っているのです。貴方様が戦場で傷つくなど、あってはなりません。

 それに、この戦争はどうにも不穏な予感がします」

「だからって、ここで黙って見ていればいいの?いつも通り過ごせって言うの?」

「左様でございます。それが皇族のあるべき姿かと」


 言っていることはわかる。


 理解は、できる。


 でも、


「納得いかないわ。みんなを犠牲にして私たちだけ普通にしているなんて」


 へリスを振り切るように歩き、黒い木で造られた扉を開け、強く閉める。


 ドアの奥で「おやすみなさいませ」と、ヘリスの声が聞こえる。

 見えもしないのに、律儀に礼もしているのだろう。


 気配が消えたのを確認すると、ドアを背もたれにして座り込む。


「はぁ……」


 へリスがこれまで私に尽くしてきてくれたこと、感謝していない訳ではない。


 しかし私はもう十五歳。成人とみなされる歳だ。


 世の中の十五歳の人間は、仕事をするもよし、さらに学びを続けるのもよしと、独り立ちを促される。


「私だって……」


 また溜息をつきながら姉の部屋と違い質素な自室を見回す。


 少しは皇女らしく、オシャレに着飾ったりした方がいいとは思っている。

 一応女として、それなりの興味がない訳では無い。


 ただどうすればいいのか分からない。


 綺麗にしているといえば、昔からへリスが綺麗な状態を保ってくれていた長い髪ぐらいだ。


「髪、か……」


 指を通した髪を眺めながら、ベッドに倒れ込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「姉様姉様! 私、すごいことを思い出したの!」

「んー、どうしたの? ……ってエイリーン!? ……髪……どうしたの?」


 部屋に入るなり駆け寄る私にアイリスは困惑の表情を浮かべる。


「あーこれ……何となく、ね。邪魔だと思って」


 私は、へリスが伸ばしてくれていた白金の長い髪を肩くらいまでバッサリと切った。


 戦場に行くと言ってへリスと口論になり一週間。


 皇宮には、前線の情報が流れてくる。


 苦戦している。そんな情報ばかりだ。

 何とか持ち堪えてはいるが、この先長く持つかどうかは分からない。


 何もできない。させて貰えない。

 そんな悩みが、髪を切ることで軽くなった気がした。


 へリスに対する反抗心、でもある。

 人形のように言われるがままに動きはしない、と示したかった。

 何も出来ない自分から離れたかった。


 その行為が子供じみていることも何となく分かっているが、気分はスッキリしている。


「たしかに切ってもエイリーンは可愛いけれど……せっかく伸ばしていたのに」

「……そんなことよりね、姉様。私、図書館ですごいものを見つけたの」


 アイリスの話を遮り、抱えていた分厚い本を見せる。


「千三百年前の三国大戦を終結させたアルスベルグの話は有名だよね。それで、彼が使った魔法が」

「……時空間魔法?」

「昔、お父様たちとかくれんぼしてて宝物庫に入っちゃった時、時空間魔水晶を私が光らせたの。覚えてる?」

「う、うんそうだったね……」


 戸惑いながらもアイリスは頷く。


「そういえば私、時空間魔法の適性があったんだよ。なんで忘れてたんだろう」


 何故かその時の記憶は曖昧だ。

 本を読んでいて、唐突に思い出したのだ。


「時空間魔法で異世界から英雄を召喚出来たら、きっと戦争を止められる」


 アルスベルグが召喚した英雄は、圧倒的な強さだったという。

 そんな英雄と共になら、戦場に行くことも許されるかもしれない。


「前にも言ったけど、エイリーンが傷つくのは嫌よ」

「もちろんそんなつもりはないけど、何もしないのは嫌なんだ」


 私の言葉に、アイリスは諦めたような表情をした。


「……わかったわ。私は何をすればいいの?」

「えっと……姉様に特別して欲しいことがあった訳じゃないんだ。なんとなく、相談したくて」


 魔法はもちろん、動くことすら制限されているアイリスに、何かを頼みたかったわけではない。


「それなら、ヘリスにも話をした方が」

「それはダメだよ! 絶対に止められる」


 アイリスに話したのは、誰にも言わずにひとりで進めるのが怖かったからかもしれない。


 話すことで、安心できる気がした。


「内緒で進めたいのね。……変なとこがあったら止めるし、お父様にも言うからね」

「うん……! ありがとう」


 こうして私は、国を救う大魔法の発動に取り掛かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから、過去の文献などを読み漁ると、召喚について様々なことがわかった。


 アルスベルグは当時、群雄割拠の中にある小国の王子だった。

 成人した頃、第二次地上大戦が勃発。魔界と人間界の戦いになり、彼は時空間魔法で英雄を召喚した。


 アルスベルグの生涯を綴った伝記には、召喚に必要なことも記されていた。


 時空間魔法による召喚は、膨大な魔力を消費するため、一日で必要な魔力を用意できない。

 そのため、まず時空間魔水晶に魔力を貯める事が必要らしい。


「アルスベルグは、『時空間魔法はフレーダット家の者にいつか発現する。』って言い残したみたいだけど、なんでみんな知らないんだろう……」


 そんな言い伝えなど、今まで聞いたことがない。


「千年以上使える人が現れないなら、言い伝えが忘れられてもおかしくないのかもしれないわね」


 たしかに、かなりの間平和な時代が続いてきた。

 必要性もない、適合者も現れない。

 いつしか忘れられて魔水晶が宝物庫に押しやられてもおかしくはない。


 それにしても、アルスベルグは未来がわかるような言い方をしているけど、それは時空間魔法によるものなのだろうか。

 もしそうなら、私にもできるのだろうか。


「まずは、魔水晶を用意しないとね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 皇帝である父に頼んで宝物庫を開けてもらうと、魔水晶はすぐに見つかった。

 そもそも、魔水晶という存在自体が希少だと思う。

 私もこれ以外のものは知らない。

 魔道具と言うと、魔法陣が使われているようなものが殆どだ。


 父は宝物庫を開けると言うと訝しげな顔をしたが、研究したいことがあると言うと、渋々許してくれた。

 引き続き時空間魔法については誰にも言わないようにする。

 アイリス以外誰にも伝えず進める。

 それはなんだか秘密の作戦のようで、ワクワクしてきた。


「これでいいのかな」


 アイリスの部屋に戻ってきた私たちは、早速準備を始めることにした。

 魔水晶に触れて魔力を込めてみると、それは青白く光った。


 身体から魔力が吸われる感覚がある。

 体感で半分ほど魔力がなくなった頃、光は収まった。


「どう?」

「うーん、まだまだかかりそうだね」


 元よりすぐにできるとは思っていなかった。

 一歩ずつ進めていこう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから数ヶ月、私は普段の生活をしながら、アイリスの部屋に通っては魔力を貯めた。


 そして今日、変化が起きた。


「――あれっ?」


 いつも通りの青白い光。ではない。

 何倍にも強く発されていた。


 自分の第六感が告げている気がする。

 必要分の魔力が貯まったのだ。


「ふぅ…………」


 達成感と嬉しい気持ちが頭をめぐりそうになるが、グッとこらえてベッドに仰向けに寝転ぶ。


「お疲れ様、エイリーン」

「まだ終わってないよ、召喚するまでが召喚なのです」


 自分の考えていたことを少し見透かされていたかのように労いの言葉をもらって変な返しをしてしまった。


「召喚は明日?」

「うん、今日はもうそんなに魔力がないや」


 召喚の際にも、おそらく魔法制御のための魔力は使うだろう。

 今からしっかり休めば、明日には万全な状態で望める。


「そっか。しっかり休んでね」

「ありがとう姉様。おやすみなさい」


 笑顔で見送られて部屋を出る。


 明日、きっと何かが変わる。

 歴史に残るような出来事になるかもしれない。

 成功すれば、戦争も終わらせて、アイリスの呪いのことも分かって、全てが上手くいくかもしれない。


 失敗するようなことがあるのだろうか。

 魔水晶を間違いなく使えば、問題はない思う。

 今まで、しっかりと手順を確かめながら進めてきた。


 とにかくあとは精一杯やるだけだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《アイリス視点》



 エイリーンを中心として部屋全体に広がり眩しく青白い光を放つ魔法陣は、その大魔法が問題なく作動する事を思わせる。

 緻密な魔力の制御を行い、歯を食いしばるエイリーンに応えるように、それは唸りを上げていた。


 正直、エイリーンには平和に過ごしていて欲しい。

 争い事に巻き込まれて私のように呪いを受けるならまだしも、命を失うことも有り得る。


 でも気持ちはわかる。

 もし呪いを受けていたのがエイリーンであれば、私だって解呪の方法を必死に探すはずだ。

 戦争が続くことももちろん望まない。

 きっと、彼女は無力感でいっぱいなのだと思う。

 なら姉として、少しでも力になってあげたい。

 何もしていないけれど、してあげられないけれど、味方でいてあげたい。


 エイリーンが行使する魔法は、もちろん今までに見たこともないようなものだ。

 ぶっつけ本番。でも、ここまで上手く進んでいる、気がする。


「あれは……?」


 一瞬水晶がこれまでと違った紫の光を発するが、集中するエイリーンは気づかない。

 

「これで、私を、私たちを、この国を……救って!!」

 

 エイリーンの声と共にすっ、と光は霧散し、元の質素な部屋がはっきりと見えるようになる。


 強い光を見すぎたせいで視界がすぐにははっきりしないが、段々と目の焦点が合ってくる。


 そこには、

 英雄には似つかない華奢な少年が立っていた。 

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