プロローグ
失敗した。
目の前の頼りなさそうな少年を見て、エイリーンはそう確信した。
フレーダット帝国は、現在戦争中である。
先の大戦から千三百年間の平和を祝う式典での事件から間もなく、シルメイジア王国が挙兵し、侵攻を受ける帝国は最前線が崩れる寸前の所まで来ていた。
皇宮には、次々と情報が入ってくる。
第二皇女であるエイリーンは、そんな状況を憂い、動いた。
自分一人で何も出来ないことは分かっている。
だから、英雄を呼ぶことにした。
時空間魔法。
フレーダット帝国初代皇帝アルスベルグ・フォン・フレーダットが使用した魔法だ。
彼はその力で、異世界から一人の男を召喚した。
その男の力により、三国大戦は終了し、その戦争の名の由来であるフレーダット帝国、シルメイジア王国、バルコ連合国の三国が誕生した。
時空間魔法の適性があったエイリーンは、ここ数ヶ月の間、準備を重ねてきた。
姉のアイリスだけに話をして、密かに魔力を貯め、制御について学んだ。
そして遂に、戦争を終わらせるキッカケを作れる。
この無力感から解放される。
みんなが救われる。
そう考えていた。
「なのに……」
思わず口に出てしまう。
華奢。
召喚した彼の見目を一言で表すなら、それである。
黒い髪に、黒く意志の見えない瞳を中心とした、中性的な顔。背が低いわけでもないが、立てば女性の内で高いほうのエイリーンと、そう変わらないだろう。服も見慣れないものである。
それらは大した話でもないが、筋肉の付き方があんまりである。
この世界の籠りっきりの学者でも、もう少しマシではなかろうか、とエイリーンは思った。
それをも凌駕するのが態度、表情。何も分からないといった表情でこちらを見つめては逸らし、こちらを伺っている。
英雄は、一目で震え上がるような覇気があるはずだ。
だが、目の前にいるのは、頼りないどこにでもいるただの子供だ。
「救えるはずだったのに……」
バタッ
「えっ!?」
「エイリーン!?」
駆け寄るアイリスを尻目に、エイリーンは意識を手放した。




