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第5話 気づけば ?里芋
寒い中で、里芋を掘っていた。
家で食べる分が、そろそろ要るなと思っただけだ。
都会だけど、山が近い。
土を掘りながら、ふと視線を上げると、
いつもの山がそこにある。
昔は、里芋に何も感じなかった。
掘ることもなかったし、
ただそこにある食べ物の一つだった。
地上は枯れている。
でも、土の中には、まだいる。
じっとして、動かずに。
掘ると、思ったより大きいものが出てくる。
こんなのが、ここにあったのかと思う。
里芋は、主役じゃない。
いつもは脇にいて、
名前を呼ばれることも少ない。
場所が変わると、
急に大切そうに扱われる。
人は、顔つきを変えて食べる。
毎日あるものは、
いつの間にか、見えなくなる。
土のついた芋は、ごわごわしている。
白くなった姿とは、ずいぶん違う。
皮をむく手間のことを、
少しだけ思う。
寒い。
山が見える。
土の中には、芋がいる。
それだけの時間だった。




