16/16
第15 話 気づけば、青い実の行方
ある初夏の夕暮れ時。
まだ小さなトマト。
枝の先に、たった一つだけ実っている。
人間は知っている。
「もう少しで赤くなる」と。
カラスも知っている。
「これは、やがて甘くなる」と。
まだ青い今は、どちらも手を出さない。
ただ、見ている。
人間は軽トラの中から。
カラスは電柱の上から。
距離を取りながら、
互いにその“瞬間”を待っている。
赤くなったとき――
先に気づくのは、どちらか。
それは収穫でもない。
それは奪い合いでもない。
ただひとつの実を巡る、
静かな時間。




