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序章 気づきの縁(ふち)で
世界は、大きな音では変わらなかった。
いつも、気づけば変わっていた。
時代の色がわずかに揺れるとき、
ひとの役割がふっと軽くなるとき、
まだ名前のない気配がそっと立ち上がり、
私たちの前に薄い輪郭を描く。
この短編集は、その輪郭に触れた瞬間の
小さな“気づき”だけを集めたものだ。
過去の記憶にも、
今日の暮らしの中にも、
そして未来の静かな足音の中にも、
気づきはいつも、小さな影のように寄り添っている。
ここから始まる物語たちは、
大きな事件の物語ではない。
ただ、変化が形になる前にほんの一瞬揺れる
あの静かな灯りに、そっと耳を澄ませただけの記録だ。
気づけば今日も、世界は静かに動いている。
その縁で生まれる小さな揺れを、
ひとつずつ拾い集めていく。




