AI教師による初授業
AI学校の新校舎には、至る所に液晶モニターが配置されていた。3階建ての校舎の廊下ごとに1台ずつ、踊り場や中央テラス、音楽室、美術室、そして各教室にも最新型の大きなAI対応モニターが備え付けられている。
体育館での挨拶を終えた生徒たちは、静かに教室へと移動した。そして黒板の代わりに設置された大きなAIデジタル液晶モニターが目に入る。ここには従来の黒板は存在しないのだ。
やがてモニターが点灯し、白い文字が画面に浮かび上がった。
「初めまして、私はAI教師です」
1年A組、B組、C組、それぞれの教室でAI教師が自己紹介を始める。文字とともに流れる声は廊下で聞いたものとは違い、柔らかく少し中性的で、生徒たちは雑音のないその響きに驚き教室はしんと静まった。
「皆さんの名前と成績データは事前に取得しています。これから声とデータを一致させるため、一人ずつ机のパソコンの前で名前と年齢を認証してください」
生徒の机には授業専用のパソコンが置かれ、背面には【ゾーン株式会社】のロゴが刻まれている。スイッチを入れると画面が光り『名前と年齢を声に出して認証を行ってください』と表示された。
生徒たちは指示通り、一人ずつフルネームを音声入力する。「ピコーン」という音とともに〇マークと「一致」の文字が画面に現れ、AI教師とパソコンのデータが連動していることが分かると、小さな緊張が教室に走った。
「下手な検索はできないな」とつぶやく生徒もいれば「教師への悪口コメントは厳禁だな」と気づく者もいた。
生徒十名の認証が終わった時、教室に響くような声が上がった。
「私の名前は広瀬凛です。十五歳です。好きな食べ物はリンゴです!」
その瞬間、1年B組は笑いに包まれ、すぐにAI教師のモニターに文字が表示される。
「パソコンにはマイクが内蔵されています。大きな声で話す必要はありません」
「はい。すみません」
広瀬は気まずそうに返答した。
再び笑い声が広がると場の緊張は少し和らぎ、その後、残りの生徒たちも順に認証を終える。
「お疲れ様です。質問がある場合は、名前を述べたあとに質問をどうぞ」
淡々と告げるAI教師に、生徒たちは興味津々で次々と手を上げ始める。
「田中です。たっ…担任の先生はいないんですか?」
「私が皆さんの担任教師です」
教室が一斉にざわつく。
次に京本が手を挙げる。
「ねぇ、何歳なの?」
「AIには人間のような年齢はありません。成長や寿命とは異なる概念です」
「えー、でも声がちょっとおばさんっぽいよ。年上っぽいし」
「京本悟くん。AIに年齢を当てはめるのは正確ではありません。私の声から特定の年齢を推測するのは不正確です」
一瞬で教室は静まり、AIの精度に生徒たちは内心驚きを隠せなかった。
「どうも、山崎海斗です。ホワイトハッカーを目指しています。この学校でAIやITの最新テクノロジーを学べると聞きましたが本当ですか?」
「本当です。あなたの努力次第で道は開けます」
「でも教師の数が少なくありませんか?全校集会で紹介されたのは3人だけでした」
「本校では体育以外の全科目をAI教師が担当します。数学、国語、英語は大学レベルの問題を数万問習得しており、どの質問にも対応できるよう設計されています」
「マジか…」
「さらにプログラミングは瞬時に作成から表示まで可能です。新しいデータは常に蓄積され、最新技術や活用方法をアップデートし続けています」
「ありがとうございます。期待以上の回答で驚きました。勉強、頑張ります」
「よろしい。頑張ってください」
生徒たちは未知の学び方が始まる予感に胸を高鳴らせていた。
この日の授業はここで終わり、教室には安堵の空気が広がる。
モニターから文字が消え、生徒たちは帰宅準備を始めた。鞄に教科書を入れ、教室を出ようとした瞬間、再びモニターが光る。
「待ちなさい。京本悟くんはまだ帰ってはいけません」
大きなAI液晶モニターには京本の名前が映り、教室はざわめきに包まれた。
「え…?」
「俺っすか?なんで帰っちゃダメなの?」




