守られる者、去る者
織田が職員室へ向かって歩いていると職員室から出てきた磯部教頭が織田悠馬を呼び止める。
「やぁ、織田くん。登校おめでとう。元気そうだね」
穏やかな笑みを浮かべながら話す教頭に織田は小さくうなずいた。
「はい・・・それよりも山崎と京本が学校に来ていません。あと、広瀬も。何か話は聞いていませんか?」
「京本くんなら事務室にいる。さっき、不法侵入で退学処分が決まったよ。広瀬さんは自ら退学を申し出た。校長室にはもう退学届が置かれていた。最初から、去る覚悟をしていたようだね」
昨夜気が動転していた織田は、広瀬が校長室の机の上に退学届けを置いていたことをすっかり忘れていた。
「そんな・・・。広瀬や京本まで・・・それじゃ山崎はどうなるんですか?」
「彼は今、警察署にいる。このままだとハッキングと不法侵入の罪で拘束されるだろうね」
「そんな……山崎だけが捕まるなんて、あんまりです。何とかならないんですか?」
「我々も大事にはしたくない。ただ、校長室のデータが抜き取られ、山崎くんのパソコンからその痕跡が見つかっている。……移されたはずのUSBは、まだ見つかっていないがね」
織田は一瞬黙り込み、やがて意を決したように口を開いた。
「・・・・取引しませんか?」
「取引?何とだね?何か秘密でも知っているのかね」
教頭が目を細める。
「データが入っているUSBと山崎の釈放を取引できないでしょうか。USBのありかを僕は知っています。だから、それを教える代わりに、山崎を助けてやってくれないでしょうか」
「なるほど。つまり昨夜、君も彼らと一緒にいた。そしてUSBは君の手にある、ということだね」
「はい。そうです。だから僕もこの学校を辞めます。だから・・・」
ポケットからUSBを取り出すと、織田は教頭の前に差し出した。
「わかった。できる限り動こう」教頭はUSBを受け取り胸ポケットに大切そうにしまい込む。「中身を確認し次第、警察に連絡して訴えを取り下げよう。山崎くんを釈放できるようにね。それから・・・・君は退学する必要はないよ」
「本当ですか?どうして僕だけ……」
その問いには答えず、教頭は思い出したように続けた。
「ひとつ頼みがある。教室に戻って、今日は帰宅するよう皆に伝えてくれ。昨日の件で生徒たちも動揺しているだろう。こちらからもAI教師に指示を出しておく」
そう言い残して教頭は職員室へと戻っていった。
織田が教室へ戻ると、生徒全員が着席していた。視線はAI教師に向いている
「本日は臨時休校となりました。皆さん、速やかに帰宅してください」
AI教師の無機質な声が響き渡る。




