深夜の図書館
「よし。全部移し終わった。ここから出よう」
山崎はUSBを抜き取りノートパソコンを大事そうに抱えると、3人は校長室を出て職員室を後にする。
「あいつは・・・京本の事はほっといても大丈夫なの?」
「捕まらずどこかに隠れてると良いんだけど・・・・」
「今はデータを僕の部屋に持っていくことを優先しないといけない。京本くんには申し訳ないけど、とりあえず早く校門を目指そう」
エントランス出入口まで辿り着くと、山崎はノートパソコンを開いてキーを叩き始めた。後ろでは織田と広瀬が息を切らしながらドアが開くのを待っていた。しかしいつまで経っても開かない。
「開かない!なぜだ。開かない!」
時間を確認すると既に深夜1時を過ぎていた。AI学校のメンテナンス時間が終了し、通常のセキュリティから厳戒態勢のセキュリティへと移行していた。
「どこだ、いるんだろ出てこい!」
廊下の奥から武田教師の血気迫る声が聞こえてくる。
「ヤバい、警備員が応援を呼んだんだ。よりによって武田教師を呼んだのかよ」
「取り合えず逃げよう」
脱出を諦め、3人は図書室へと向かった。
「しばらくここで身を潜めましょう」
本棚の下に座り込むと息も切れ切れで、声を出すのも精いっぱいの状態だった。誰もいない図書室は静まり返っていた。しばらくすると、少し離れた本棚から物音が聞こえてくる。「ガタッ」「ガタッ」っと人が出す音ではない。3人は立ち上がると音が鳴る本棚に視線を向けた。
「ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ……ガタガタガタガタガタ」
「何?一体何が起きてるの?」
広瀬が悲鳴にも近い声を上げる。
「どういうことだよこれ……」
織田は声を張り上げながら周囲を見渡す。
すると本棚に並ぶ本が金具に打ち付けられるように前後へ揺れ、不気味な音を立て始める。最初はゆっくりとした動きだったが、次第に速さを増し、やがて激しく震えだす。しかもそれは一冊だけではない。棚に並ぶすべての本が一斉に前後へと動き始める。通常は棚に設置されているICチップに学生証をかざすことで、金具の計りからロックが外れ棚の奥から本が押し出される仕組みだが、目の前には勝手に前後する本が次第に大きな音を立て動き始めていた。
「恐らくAI教師の仕業だね。校長室からデーターを引き抜いた事がバレたんだと思う。でも心配する必要はないよ。図書館でいくら本が勝手に動いても僕達が被害を受ける事はないからね」
「そうだといいが・・・」
「はぁ、どうして私がこんな目に合わないといけないのかしら」
広瀬は溜息を吐きながら額に手をつけて呆れてた表情を醸し出す。
異変が起きたのはそれから数十秒後。本棚から煙が出始めると、すぐに火の粉が飛び散り本が燃え始める。金属と本が摩擦によって消耗し火が付いたのだ。
「おいおいおいおい、嘘だろ。今度は図書室で火事かよ!」
慌てて図書館から出ようと出入り口に向かうも、さっきまで開いていたはずの扉の鍵が閉まっている。
「あの時の状況と全く一緒だ」
織田は溜息を吐きながら言った。
「君が言うあの時って音楽室の事?」
「そうだよ。あの時も閉じ込められて鍵が閉められていた。だから・・・だからこんな所でのんびりしている時間はない」
そう言うと思いっきり全身を使ってドアに体当たりをする。
深夜に響く体当たりの音。
「ちょっと、あんたもボーとしてないでやりさないよ」
広瀬は声を張り上げ、大事そうにPCを抱えて立っている山崎に向かって言った。室内は次第に煙が充満し、次第に呼吸も苦しくなってくる。
「みんなでやりましょう。ドアへの圧力を一気に掛けるには重たい方がいいでしょ」
緊張した表情の山崎は、広瀬の目を見て助けを乞うように言葉を落とす。
「あんたねぇ・・・」
広瀬は腰に手をやりながら呆れるも、渋々ドアの前へと進む。
3人揃って「せーの」と掛け声を出しドアに体ごとぶつけると、バタンと音を立ててドアが外れた。煙が後ろから追ってくるなか、3人は急いで図書館から抜け出す。
「おい、そこに誰かいるのか!」
1階の階段下から武田教師の声が聞こえてくる。3人は階段を下りずに廊下を真っ直ぐ走り遠回りして2階から1階へと降りる。エントランス出入口まで辿り着くと山崎はノートパソコンを開いて、ドアのハッキング作業を急いで行う。3分程格闘し、ようやく入口のドアが開いた。
「開いた。よし、出よう」
「ちょっと待てよ。広瀬がいない」
「え?」
織田の声を聞いて山崎が後ろを振り向くと、さっきまで一緒にいた広瀬の姿が見えない。
「こんな時になにしてるんだよあいつ。トイレにでも行ってるのか」
「ここでジッとしていると武田教師が来るよ。もう行こう」
「もう少し待とう。せっかく一緒に来てくれたんだし」
「あ~もう・・・」
地団太を踏む山崎。するとようやく広瀬が走りながら二人の元へと戻ってきた。
「おい、どこに行ってたんだよ。早く出るぞ」
「・・・・用を済ませてきたのよ。悪かったわね」
一言呟くと三人は走って学校から抜け出した。




