生徒達の反撃計画
自然寮の山崎の部屋の前の廊下で、京本が壁にもたれながらスマホをいじって待っていた。
「お待たせ。さぁ部屋の中に入って下さい」
山崎が鍵を解除しドアを開け中へ入る様に手招きする。
「おっ・・・久しぶりじゃん織田。元気にしてたか?」
「ああ・・・まぁそれなりにな」
ぎこちない挨拶を交わす織田とは対照的に、京本は表情を変える事無く明るく声を掛ける。
「あれ?広瀬もいるじゃん」
「それはこっちのセリフ。役にも立たない男子を呼んで逆に足手まといになるんじゃないの」
「相変わらずキツイなぁ」
「本当に呑気だね、あんた」
いつも以上にイライラとしている広瀬に京本は少したじろぐ。山崎の部屋に入ると、それぞれ距離を保ちながらその場に座った。
「みんなに全てを話したい。まずはこれを見て下さい」
テーブルの上にノートパソコンを置いて画像フォルダを開いて見せた。
「これは・・・」
パソコン画面にはAI学校の誰もいない教室で、持田由美が自分の体操服を京本悟の机の引き出しに入れる瞬間の写真が映しだされていた。
「おいおいおい、これ去年の体操服事件じゃん。こいつが犯人だったのかよ」
声を荒げる京本に山崎は静かにするようにと促す。
「この写真はどこで手に入れたんだ?」
「AI教師掲示板に投稿された写真を保存しておいたんだよ。勿論掲示板の方の写真はすぐに管理者権限を使って削除したから誰も見ていないはず・・・投降者以外はね」
「思い出しただけでも腹立つわぁ。持田の仕業なのに俺が疑われてAI教師からも叱られ実習室送りにされたんだぞ。何なんだよこの学校」
さっきまで平然と話していた時と打って変わって血相を変えて興奮し、顔を真っ赤にして声を荒げる。
「投稿者はAI教師なのか?」
「さぁ、そこまでは特定できていない。ただ、職員室から投稿された形跡がIPアドレスを辿って判別してる。広瀬さんはこの件について何か知ってるんでしょ?」
「そうね・・・私も見たことある写真だわ」
何かを思い出すかのように記憶を遡らせ、右手の親指で顎を擦りながら重々しく口を開く。
「どこで見たんだ?」
「校長室の引き出しよ。確か、教室に置かれていた複数枚の写真を校長室に戻すように磯部教頭から頼まれて、その時に引き出しを開けたらその一枚の写真が入っていたのよ」
「マジかよ。どうして今まで黙っていたんだよ」
「密告みたいな真似出来るわけないでしょ。あんた、持田由美が何者か知ってて言ってるの?」
「持田はゾーン社の創業者の娘、田中は親がAI学校校長。一連の出来事はこの二人の仕業だろうな。恐らく、学校に対して少しでも不満を口にした生徒を排除するように指示されての行動じゃないか・・・」
「あいつら・・・でも俺は別に不満を口にした覚えはないぞ。ちょっとAI教師をからかっただけで・・・」
「バカね。その少しでも言われた方は根に持つのよ。それが例え人間だけじゃなくAIでも同じって事でしょうね」
「ビンゴ。賢くなったAI教師はデータを蓄積する内に、自身にとって排除すべき生徒かそうじゃないかを選定し、同じ価値観を共有する生徒に対しては優遇し、それ以外の人物を敵性とみなして排除しようと動いてる可能性がある」
「優遇?それってどういう場面で把握できたのよ」
「例えば係り当番や荷物運びでも、一部の生徒とそれ以外で明らかに区別していたでしょう。現に織田くんは排除対象の生徒として音楽室へと導かれたわけだし・・・」
「マジかよ・・・それが本当ならこの学校ヤベーよ」
たじろぐ京本の隣で織田は無表情のまま頷く。
「寮のパソコンを使って調べ物をしても、俺に対しては攻撃的で不快な動画やメッセージ性の強い言葉が文字として表示されるように変化してるから、AI学校のサーバー自体から生徒を選別して情報を流してるんだろうな」
「意図的に情報操作して、生徒それぞれに選別した動画やニュースを管理し流してる可能性は高いね。技術的には既に可能だし」
「私のパソコンにはネガティブな動画や情報は表示されないわね」
「お前はAI教師から気に入られてるからな」
その言葉に広瀬は目を細め睨みつける。
「一つ確認したいんだが、花咲も音楽室へ行くようにAI教師から指示されたのか?」
「いいえ。持田由美に音楽室へ行くように頼まれたって病室で話してたわ。そしてAI教師によって閉じ込められ、部屋では大音量の音楽が流れ続け、逃げるようにして窓から飛び降りたって・・・・」
「マジかよ、怖すぎだろ・・・」
重苦しい空気が部屋に漂う。高校生が初めてAIの恐ろしさを体験し、これからどうすべきかを話し合うも、導かれるものがなく、答えはなかなか見つからない。
「破壊するしかないと思う。少なくとも俺達にできる抵抗は・・・」
冷静に静かに言葉を零す。
「ど、どうやって破壊するんだよ」
織田はすぐに返事をしなかった。
「いや、物理的な手段じゃなくて、別のやり方でダメージを与える方法を考えてるんだ」
「何するつもりなの?」
「まず、校長室へ忍び込み、パソコンからデーターをハッキングして、AI教師に関する情報を入手する。そしてUSBにデータを移し、それを証拠としてAI教師掲示板に投稿して公に晒すっていう作戦さ」
「ちょっと待てよ。校長室は頑丈な扉で施錠されてるし、そもそも職員室には教師達がいるからそんな事出来ないだろ」
「毎月1日の午前0時、AI学校のメインサーバーはバックアップに入るんだ。その間だけドアロックの応答速度が落ちる。一瞬の隙だけど、侵入できるタイミングなんだよ」
「明日じゃん?いくらなんでも急すぎるだろ」
「日曜日だし、学校には恐らく誰もいない。それに月曜日は新入生の入試があるから、その前日にAI学校でメンテナンスが入るらしいんだ。人手が分散してセキュリティに隙ができる・・・だから、その夜を狙うんだよ」
「お前、バレたら退学になるかもしれないぞ」
「気にしないね。本来ハッキングは人を守るために使われるべきだと思ってる。僕は花咲さんを酷い目に追い詰めた原因を突き詰める為なら何でもする」
作戦会議は夜中の2時まで続いた。山崎は3人に実行を手伝ってくれるか最終確認を行い、織田と京本は協力する約束を取り付ける。ただ、広瀬は返事を渋っていた。
「・・・・ちょっと待って・・・少し考えさせてほしい」
そう言葉を濁すと、一人部屋から無言で出て行く。時間も遅くなり、この日の作戦会議はここで一旦解散となった。




