泣きじゃくる山崎海斗
花咲が病院へ運ばれたという知らせは、あっという間に寮の学生たちの間に広がった。
その夜、食堂では京本、田中、山崎が夕食を共にしていた。
「さっき学校に救急車が来たらしい。それで花咲が病院に運ばれたとか」
京本は箸を置き低い声で話し始める。
「本当に?一体何があったんだろう…」
「どういうことだ!彼女に何が起きたんだ!」
山崎は顔色を失い、立ち上がりながら声を荒げる。
「噂によると、音楽室の2階の窓から飛び降りたらしい」
その瞬間、山崎は席を蹴るように立ち上がり、食堂を飛び出した。靴音が廊下に響き渡りそのまま全力で学校へ向かう。
学校に到着した山崎は、息を切らせながら現場へと向かった。音楽室の窓の下にはまだ新雪に覆われた地面に人型のくぼみが残っている。
「どうしてこんなことに…」
白い粉雪が舞い落ちる中、虚ろな表情で見上げると音楽室の窓からワインレッドのカーテンが風に揺られ飛び出していた。山崎は膝をつきその場に崩れ落ちた。冷たい雪が降り注ぐ中、彼は無力感に苛まれその場にうずくまる。
「何してるんだ、そこで!」
武田教師の怒鳴り声が静寂を破る。山崎は応じることなく、雪の上でうずくまったままだった。武田はさらに苛立ち声を荒げる。
「おい、聞いてるのか!」
山崎の肩を強く掴むと、彼はかすれた声でつぶやいた。
「どうして彼女がこんな目に遭わなきゃいけないんだ…」
「俺に言ったって知るわけないだろう。ここに居座られると迷惑だ。さっさと帰れ」
その言葉に山崎の怒りが爆発した。立ち上がり、拳を握りしめながら武田に詰め寄る。
「ふざけるな!お前たち大人がきちんと管理しないから、こんな事件が起きるんだろ!」
山崎は怒りに任せて武田の胸倉を掴む。武田は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し体格差を活かして山崎を抱え上げると、そのまま雪の上に投げ飛ばす。
「調子に乗るなよ!大人に逆らうなガキが。謹慎処分にされたくなければさっさと帰れ」
雪の中に倒れ込んだ山崎はゆっくりと身体を起こす。頭には白い粉雪が積もり、それがじわじわと溶けて水滴となり、ポタポタと地面に落ちていく。彼は武田を睨みつけることもなく無言でその場を立ち去った。うつむいたまま、雪道を一歩一歩踏みしめながらAI学校を後にする。
絶望的な心情を抱えたまま山崎が寮に着くと、エントランスでは広瀬が他の生徒たちに何やら説明をしている姿が目に入る。
「どこに行ってたのよこんな雪の中で。まさか学校なんかに足を運んでないわよね?」
「別に君には関係ないだろ」
そのやり取りを見ていた京本が近づいてきた。
「広瀬から聞いたけど、花咲は病院に入院してるらしいよ。広瀬が見舞いに行って確認したんだってさ。怪我、結構深刻らしい。」
「命に別状は?彼女の容体は大丈夫なのか!」
「生きてるわよ。右腕を骨折して重傷だけど、医者の話では後遺症は残らないだろうって」
広瀬は短く頷き冷静な声で答える。
幸いにも雪が積もっていたことで花咲薫の命に別状はなかった。重傷とはいえ、腕の骨折だけで済んだことが不幸中の幸いだった。
その言葉を聞いた山崎は安堵と涙が入り混じった表情を浮かべるととメガネが曇り下を向く。泣いてる顔を見られるのが恥ずかしいのか、両手で顔を覆った。
しばらくして武田教師が寮に訪れ生徒たちを見渡す。
「お前ら、花咲のことは大丈夫だ。心配するな。もう部屋に戻れ」
山崎は部屋に戻ると泣きじゃくる。好意を抱いていた花咲薫が学校で大怪我した事がショックで大粒の涙を零す。




