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AI教師  作者: AKi
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音楽室の悲劇 花咲薫 

翌日、しんしんと雪が降り、少し積もった歩道に学生たちの足跡が並ぶように連なる。


この日の授業は3時間で終了。新入学生による入試試験の関係で午前中授業だった。教室に響くチャイムの音とともに、生徒たちは下校の準備を始める。


「持田由美さん、職員室の応接室にお父様がお見えです」


AI教師の声が教室に流れる。


「お父様が?それじゃ行った方がいいわね」


持田は小さく微笑み、足早に教室を後にした。


続いてAI教師が別の生徒に呼びかける。


「広瀬凛さん、磯部教頭が放課後、職員室に来るようお伝えしています」


「磯部教頭が…?分かりました。すぐに伺います」


放課後になり、生徒たちは次々と教室を出て靴箱があるエントランスへと向かっていく。その途中、廊下の窓から外を眺めた広瀬は、一面に広がる雪景色に目を奪われた。



「この地域で雪が積もるなんて、珍しいなぁ…」


花咲は小さく呟きながら、友人たちに手を振って別れ、一人で廊下を歩き出した。冷え切った廊下を抜けトイレへと向かう。用を足し、トイレから出た瞬間、目の前に持田由美が立って待っていた。


「丁度良かったわ。今ね、人を探してたの。あなたにお話し聞いてもらいたいんだけどいいかしら?」


「どうかされたんですか?私でよければ…」


「お父様が応接間で私を待ってるの。急いでいかないと帰ってしまうかもしれないのよ。でもね、音楽室に日記帳を置き忘れてしまって、誰かに見られてしまうのも恥ずかしいし、男子には特にね。だから取りに行って来てくれないかしら?」


「私が?自分で取りに行けばいいんじゃ…」


そう言いかけた花咲の言葉を持田は強引に遮る。


「急いでいるのよ!お父様がその間に癇癪を起こして帰っちゃったら、あなた責任取れるの?花咲さん、今何も予定ないでしょう?お願い、ほんの少しの手間で済むことじゃない」


「分かった…。でも今回だけだからね。こんな無茶なお願い聞くのは」


花咲は困惑しながらも溜息をつき、渋々頷いた。


満足そうに笑みを浮かべたまま何も答えず持田は職員室の応接間へと向かう。ゆっくりとマイペースに歩く後姿を見て、少し不満に感じながらも花咲は音楽室へと急いだ。





その頃、職員室では磯部教頭のデスクの前に広瀬凛が座り、ヒアリングを受けていた。


「1年B組のことだが、どうだい? 特に変わったことや問題は起きていないかね?」


磯部教頭が資料をめくりながら問いかける。


「はい、みんな真面目に勉学に励んでいます。問題を起こすような目立った生徒は特にいません」


「それは何よりだ。君には期待しているよ。引き続き、他の生徒に緊張感を与えるような存在感を持ち、頑張ってくれたまえ」


磯部は満足そうに頷きながら書類にペンを走らせる。


「はい。これからも精進していきます」


広瀬の答えは揺るぎないもので、彼女の表情には自信が満ちていた。その後ろでは、1年A組とC組の生徒がそれぞれ代表として一人ずつ呼ばれ、椅子に腰掛けて待機していた。




音楽室に到着した花咲薫は緊張した面持ちでドアに手を伸ばす。横にスライドさせると、ドアは驚くほどあっさりと開いた。


中は静寂そのもので、人気のない空間に彼女の足音だけが不気味に響く。持田に頼まれた日記帳を探して視線を彷徨わせたが、それらしいものは見当たらない。花咲は部屋の奥へと進みAI教師の前に立つ。


その瞬間、画面がちらつき、唐突に音楽が流れ始めた。


「え?」


花咲は驚いて身を硬直させた。画面はノイズ混じりの映像を映し出し、音楽はどんどん音量を上げていく。


「ちょっと!やめてください....」


必死に声を張り上げたが、彼女の声は鳴り響く音にかき消された。音量はさらに増し、耳をつんざくほどの大音量に。花咲は耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。それでも音は止まらず、重くのしかかるように彼女を追い詰める。しばらく経っても音は鳴りやまず、花咲は力を振り絞って立ち上がると、中腰になりながら入口へ向かう。しかし、ドアに手を掛けてもいつの間にか施錠され開かなかった。


「開けて……誰か、開けてください!」


声を精一杯出すも誰の耳にも届かない。花咲は次に大きな窓に身を寄せる。手探りで開いてる窓を探すと一つだけ鍵が掛かっていない窓を見つけ、力任せに押すと大きく開いた。


花咲は音から逃げるように身を乗り出す。それでも音がまるで自分を追って来るかのように背後から迫って来る。次々と不快な音は鳴り続け、やがて意識が朦朧とすると、そのまま逃げるかのように窓から飛び降りる。


しんしんと雪が舞い散る中、花咲薫は2階の音楽室の窓から飛び降り、その場に倒れ気を失った。音楽室から人の気配が消えると楽曲は徐々に小さくなっていき、やがて完全に止まる。



花咲は通りがかった学生の通報によって救急車で病院へと運ばれた。白く冷たい雪の上で倒れていた彼女の体温は著しく低下しており、救急隊員たちは車内で懸命に救命措置を施した。



その頃、持田は廊下で広瀬とすれ違いながら職員室へと到着した。ドアを開けて中へ足を踏み入れると、彼女は父親の姿を探して視線を巡らせる。しかし、どこを見てもその姿は見当たらない。


「どうしたのかね?」


磯部教頭が気づき、デスクから顔を上げる。


「お父様を探してるんです。応接間にいると伺ったので」


「応接間には誰も来ていないよ」


「そうですか…。まあ、私の役割はこれで済んだので、帰ります」


その言葉を残して持田は静かに職員室を後にした。彼女の表情に動揺の色はなく、むしろどこか満足げに見えた。




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