花咲と山崎のすれ違う想い
花咲が寮に戻ると、自分の部屋の前に立つ山崎の姿が視界に入る。彼は壁にもたれかかり少し疲れた様子だったが、花咲を見つけると笑みを浮かべ近づいてくる。
「やぁ、今日もお疲れ様」
「どうしたの?」
「最近、表情に元気がないからさ。少しでも話せたらいいなと思って」
「そう・・・。どうしても織田くんのことが気になっちゃって。部屋からも出てこないし」
「彼なら大丈夫だよ。昼間には食堂に来てご飯も食べているみたいだし」
そう言いながら、彼は手に持っていた茶色い紙袋を差し出した。
「それより、これ。どうぞ」
「なに、これ・・・?」
花咲は首をかしげながら袋を受け取った。おそるおそる中を覗くと、花柄模様の白い靴下が目に入る。
「あっ、靴下だ」
「最近寒いでしょ?足元を温めると体全体がぽかぽかするって言うし。風邪ひかないように、と思ってね」
「ありがとう。嬉しい」
「ハハハ、それならよかった。もし迷惑じゃなければ、部屋の中で少し話せないかな?」
「それは無理かな」
その申し出に花咲は首を横に振る。
「・・・そっか。じゃあもう戻るよ」
山崎は少し寂しそうに微笑むと、手を振りながら廊下の向こうへと去っていく。花咲が部屋のドアを開けようとした時、背後から広瀬の声が聞こえた。
「遅かったわね、帰ってくるの。歩くスピードがのんびりだから、あっという間に日が暮れちゃうのよ」
振り返ると広瀬が腕を組みながら立っていた。
「はいはい。どうせ私はのんびり屋さんですよ」
苦笑しながら返すと、広瀬もふっと笑い二人はそのまま部屋の中へと入っていく。その様子を廊下の角からじっと見つめる視線があった…。山崎だった。
「・・・あの二人、怪しい」
その日の夜、寮の一室──京本の部屋には京本、山崎、田中の3人が集まっていた。机の上にはスナック菓子と紙コップだけが雑に置かれ、三人ともどこか落ち着かない表情をしている。
「……で、本当に織田はまだ部屋から出てこないのか?」
京本が小さくため息をつきながら言う。
「うん。今日もずっとだよ。昼間にご飯だけ食堂に来たみたいだけど」
田中は腕を組み、曖昧な表情で答える。
「精神的に追い込まれすぎだよ。AI教師の不具合なら一度学校側にちゃんと調査させないと」
山崎は淡々とした声で言った。
京本はその言葉に眉をひそめる。
「お前、花咲に靴下渡してただろ。なんか企んでんのか?」
山崎は「え?」と目を見開き、すぐにいつもの薄い笑顔を取り戻した。
「企む?まさか。ただ心配してただけだよ」
「織田くんのことじゃないの?」
田中の問いに山崎の笑顔がほんの一瞬だけ固まる。
「もちろん、彼のことも心配してるよ。……とにかく、放っておくと本当に壊れるかもしれない」
その言葉に京本と田中は黙り込み、部屋に重い空気が落ちる。
「明日、僕が織田君の部屋に行ってみるよ」
山崎が立ち上がりながら言った。
「無理やりでもロック解除して顔だけでも見てあげないと、彼は本当に……戻ってこれなくなる」
三人はそれぞれ別々の思いを胸に部屋を後にした。




