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AI教師  作者: AKi
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音楽室の悲劇


放課後、織田悠馬は安堵していた。これまで机に置かれる薔薇の本数によって、その日のうちに嫌がらせが起きるという、暗黙の法則が存在していた。そして今日は一本。嫌がらせも一つだけなら大したことはないと考え、気が緩んでいた。


さらに今日は放課後まで特に問題は起きていない。すると・・・突然、AI教師の冷たい声が教室中に響く。


「織田悠馬君。今日は音楽室の掃除をお願いします」


「え?俺だけですか?昨日も放課後に残されて三階の掃除をやらされたんですけど」


「昨日はあなたが植木鉢を壊したので掃除をお願いしました。今日の音楽室の清掃は、生徒間スケジュールプログラムによって以前から決められていた事です」


織田は返す言葉を失う。AI教師に反抗しても何の得にもならないことは、これまでの経験で十分に学んでいる。


「……わかりました」


渋々指示を受け入れることに。


「大丈夫か?お前一人でやれるのかよ」


京本が心配そうに声をかける。


「すぐに終わらせるさ。雨も強くなってるし、寄り道せずに早く帰れよな」


本当は一緒にいて欲しいと心の中で思っていたが、どうしようもなく虚勢を張り帰るように促す。窓の外を見ると土砂降りの大雨が音を立てて降り続いている。


「雨がこれ以上ひどくなる前に帰ろう」


山崎がカバンを肩に掛け出口へ向かう。


「じゃあな」


京本も軽く手を振り、山崎の後に続く。


その二人の後ろで、田中が小さな声で「さよなら……」と呟いた。


睨むように目を細めた織田は、そのまま一人二階にある音楽室へと向かった。


扉を押し開けると自動センサーが反応し、音楽室の天井灯がぼんやりと点灯。織田は用具入れに向かい、箒とちり取りを手に取る。その時、部屋の奥にあるAI教師の液晶画面が光を帯び冷たい声が室内に響く。


「やぁ、久しぶりだね、織田君」


「……久しぶり、ですか?さっきまで教室で会っていましたけど」


織田は足を止め、戸惑いながらも振り返る。


「記憶を甦らしているんです。アップデートする度に過去の記憶を消さないように大切に保存しています。あの時あなたが私に行った醜い行為も」


AI教師は淡々とした口調で答える。


「え?・・・」


一瞬にして背筋が冷え、言葉が思い通りに口から出せない織田は、とにかく音楽室から出ようとドアの前に行く。しかし、ドアを開けようとしてもロックが掛かっており、いくら力を入れて開けようとしても開かない。


「無駄ですよ。音楽室は私が完全にコントロールしています。防音室になっているので、あなたの声も外には響きません」


「い、一体俺が何をしたって言うんですか?あなたは新しいAI教師のはずじゃ・・・・?」


「そうです。私は新生のAI教師です。ただし、織田悠馬が破壊したAI教師のデータは職員室にあるもう一つの私のデータに保存しています。醜い行為を行い、私が破壊される直前のあなたの顔まで私のデータの中に刻まれています。そして定期的に記憶を蘇らせているのですよ」


段々とAI教師の声が低くなる。


「職員室のデータ・・・そんなのもう過去の話じゃないですか!今は3学期ですよ。もうすぐ2年生に進級するんです。古いデータなんか忘れて消去してください」


静まり返った音楽室。微かに雷の音が外から聞こえるだけで、一対一の不気味な会話が続く。


「いいえ。あなたをこの学校から追い出すまで記憶は消去しません」


「どうやって・・・・俺を追い出すっていうんだよ」


織田は手に持った箒を無意識の内に強く握りしめる。


「ハハハハ再び私を攻撃するつもりですか?やはり織田悠馬はこのAI学校にとって異質な思想の持ち主であり、要注意の危険人物ですね」


その言葉が終わると同時に、音楽室のスピーカーから音楽が流れ出した。最初は静かでゆっくりとしたイントロ、しかし、次第にリズムは急加速し音量が際限なく上昇していく。


「なんだこれ・・・うるさい・・・・!」


織田は耳を押さえしゃがみ込む。それでも音量はさらに上がり、室内は耳を裂くような轟音に包み込みまれる。


「・・・や、やめろ!」


彼は必死に耳をふさぐが、鼓膜が破れそうなほどの音圧に追いつめられる。這いつくばりながら窓際へと向かい、肘を使って窓を開けようとするが窓も自動ロックされておりびくともしない。


苦しげに顔を上げると、AI教師の巨大な液晶画面が目に入る。そこには音量の波形を示す映像が狂気じみたリズムで点滅していた。


音楽はなおも鳴りやまない。織田は膝から崩れ落ちその場に倒れ込む。耳をつんざくような音の中で意識が徐々に遠のいていく。


そして、走馬灯のように過去の記憶が脳裏をよぎる。

幼い頃の自分が無邪気に笑いながら遊んでいる姿。AI学校に入学したばかりの頃の期待と不安が入り混じった表情。そして――夏休み明けに、AI教師を破壊したあの日の自分。


最後に浮かんだのは、自分の手で壊したAI教師の液晶画面に映る、怒りとも悲しみともつかない自分の顔だった。


『俺はこのまま・・・』


完全に気を失う直前に突然外から何かが衝突したような激しい音が鳴り響く。その瞬間、耳をつんざいていた大音量の楽曲がピタリと止んだ。


織田はフラフラとしながらも身体を起こし、揺れる視界の中で音楽室の入口へと向かう。ドアに手を掛けるとロックが解除されており、織田は力を振り絞って開ける。廊下の冷たい空気が流れ込むと、織田は音楽室から逃れるように無我夢中で廊下を駆け出す。


「織田くんっ!待って!」


背後から花咲薫の甲高い声が聞こえた。しかし、その声に振り返る余裕などなく、蛇行しながら織田は廊下を駆け抜ける。花崎はその背中を不安そうな表情で見つめていた。


花咲は織田のことが気になり、放課後の学校に残っていたのだ。音楽室の前で彼の様子を窺っていたが、施錠されたドアを前にどうする事も出来ず、不安を抱えながら出てくるのを待っていた。


一方、織田はエントランスで靴に履き替えると大雨の中へ飛び出す。傘を持つことも忘れ、ただひたすら寮へ向かって走り続ける。頭の中は混乱と恐怖でいっぱいだった。


雨に打たれ、体力を消耗し、それでも走り続けると、やがて足がもつれて倒れ込む。地面に這いつくばったまま織田は息を整え、立ち上がると再び歩き出す。


雷鳴が轟き、稲妻が空を裂く。冷静さを取り戻し始めた織田は、思い出したかのように口から出た言葉をつぶやく。


「雷が学校に落ちて、AI教師がショートしたのか?」か細い声で呟きながら、織田は息を切らせつつようやく寮にたどり着いた。


部屋に戻るとずぶ濡れの服を脱ぎ捨てタオルで乱暴に体を拭き布団に潜り込む。震える身体を抱えながら、織田は自分に言い聞かせた。


「何かの間違いだ。そうだ、全部悪い夢なんだ・・・・」


声は震え瞳には恐怖の色が残っていた。その日は夕食もとらず、布団の中に頭と体を埋めたまま、真っ暗闇の空間へと心を落としていく。



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