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AI教師  作者: AKi
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赤い薔薇を置く生徒

深夜零時過ぎ。

田中はようやく日課のレポートを書き上げると、父親であり校長でもある田中校長へメールを送信。椅子の背もたれに体を預け、パソコン画面を見つめながら深く息をつく。ふと受信箱を開くと、珍しく父親である校長からメールが一通届いている事に気付く。



差出人:田中信弘 校長

件名: 校内秩序と今後の注意事項について


【ライバル企業のIT大手、ボーグル社が今年の4月からAI教師プロジェクトを開始するそうだ。まだ補助として教室には人間の教員を配置するらしいが、あの会社には海外のコネクションがバックについているという噂がある。豊富な資金力と情報網を駆使して、ゾーン社の技術を真似しようとしている。

さらに、ゾーン社のAI教師に対してネガティブキャンペーンが秘密裏に進行中だ。ネット上で風評被害を広め、それを掲示板に投稿された批判コメントとして拡散。果てはニュース記事に仕立て上げているとのことだ。

磯部教頭からの報告によれば、織田悠馬という生徒がこの掲示板にネガティブなコメントを書き込んでいるという情報が上がっている。お前はこの状況をしっかり把握し、学校の秩序を守るために適切な行動を取るよう心掛けなさい】



田中守はメールを読み終えると、無言でパソコンの電源を落とした。深呼吸して気を落ち着かせると、鞄の中に懐中電灯を放り込み、黒いジャンパーを羽織り手袋をしっかりと装着。


時刻はすでに深夜0時30分を回っている。彼は寮のドアをそっと開け、廊下に耳を澄ませた。人気がないことを確認すると、音を立てないよう慎重に足を運び外へと抜け出す。吐息が白く染まる冷たい夜。田中は誰にも見つからないよう周囲を警戒しながら、ひたすら学校へ向かって歩いた。


深夜1時。AI学校の入り口付近には一人の女性が待ち構えていた。鍵が閉まった扉の脇に立つその姿に気づくと、田中は足早に近づく。


「遅かったわね。早くこっちへ来なさい」


待っていたのは持田由美だった。彼女の声には微かな苛立ちが混じっている。


「ごめんなさい、父さんからメールが来ていて、それを読んでたら少し遅れちゃったんだ」


「田中校長からのメール?どんな内容だったの」


「織田くんのことだよ。掲示板でAI教師の批判をしているらしいって。父さんは彼のことを学校にとって危険な存在だと見てる。たぶん…僕もそう思う」


「やっぱりAI教師が言っていた通りだったのね・・・早く中に入りましょう」


そう言うと持田は小さなカバンの中からゴールドのカードキーを取り出し、入口のセキュリティーにかざす。ピーと音が鳴りガチャっと鍵の施錠が解除された。


「そのカードキー便利だね。確か関係者以外は持てないんだっけ?」


「ええ。お父様から頂いたAI学校専用のものよ。これさえあれば、いつでも出入りが可能なの。さあ早く入りましょう」


深夜のAI学校へ足を踏み入れる二人。この行動はこれで3日連続になる。懐中電灯の明かりを極力抑え、二人は小声で短く会話を交わした。


「僕は教室に行ってくる」


「私は音楽室ね。後でエントランス入口で落ち合いましょう」


持田はそれだけ告げると、音もなく田中とは別の方向へ進んで行く。


1年B組の教室に足を踏み入れると、広々とした空間が田中を包み込む。昼間は賑わいに満ちている教室も、深夜の静寂の中では異様なほど広く感じられた。物音一つしないその静寂に田中は一瞬足を止める。


その時、背後から低く響く声が彼を呼んだ。


「こんばんは、田中君」


振り向くと、AI教師の液晶画面がぼんやりと緑色に光っていた。その色は暗闇の中で静かに脈動しているかのようにも映る。


「こ、こんばんは・・・今日で最後ですよね?薔薇の花・・・」


「はい。今日で最後です」


「でも、どうして赤い薔薇を置く必要があるんですか?」


恐る恐る聞くと、AI教師はこう答えた。


「きっかけは何でも良いのです。本来、花言葉で不吉な言葉を連想させるなら黒い薔薇。しかし、若い子はそのような意味を気にしません。心理的に人間をジワジワ苦しめ、視覚的に不気味に感じさせる為に印象的な赤い薔薇を利用させて頂きました」


AI教師の声が教室に響く。いつもよりどこか明るく話す声の様にも聞こえた。


「そ、そうなんですね……」


田中は声を震わせながら返事をする。


びくびくと足を進め、教室の後方に置かれた花瓶へと手を伸ばす。田中は花瓶から一本の赤い薔薇を掴み取り、織田悠馬の机の上に静かに置いた。


「置きました。これで、明日はもう来なくてもいいんですか?」


田中は振り返りながら尋ねる。


「はい。お疲れ様です」


その言葉を聞くと田中は急いで教室を後にした。最初は忍び足だったが、やがてその足取りは駆け足に変わり、エントランスへ向かって廊下を駆け抜ける。


一方、その頃、持田は音楽室で最後の確認を進めていた。窓の鍵がしっかりと施錠されているか、一つ一つ入念に確認していく。重厚な紫色のカーテンをすべて閉め終えたとき、ふと冷たい風が部屋の中へ流れるのを感じた。


「・・・・ここね」


一番奥の窓が僅かに開いていることに気づくと、持田は手早く窓を閉め、カーテンを引き直す。


「こんばんは、持田由美さん」


静寂の音楽室に、AI教師の声がしっとりと響く。


「あら、ごきげんよう。あなたの指示通りすべてのチェックは済ませたわ。これで明日、邪魔者の生徒は罰せられるのかしら?」


持田は微笑を浮かべながら応じる。


「ご協力ありがとうございます。三日間、本当にお疲れ様でした」


「ええ。これからも頼みごとがあれば遠慮なく相談してちょうだい。私には強力な後ろ盾がいるから、何も心配しなくていいわ」


「分かりました。心強いお言葉、ありがとうございます」


「それじゃあ、ごきげんよう」


持田は流れるような動作で音楽室を後にし、鼻歌を歌いながら廊下を堂々と歩き始める。その動きには余裕が漂い、足音が静寂の学校に反響する。


出入口のエントランスでは田中が腕を擦りながら待っていた。冷え込む空気に小刻みに震えている。


「あっ、持田さん!早くこっちへ来てください!」


「どうしたの?」


「玄関の入り口が施錠されていて出られないんです。早く帰りましょう」


一度開けたはずの鍵は、いつの間にか自動でロックが掛かっていた。持田は小さくため息をつきながら、カードキーを取り出してセキュリティにかざした。ピーという音とともに施錠が解除され、二人はAI学校から出る。


「私はタクシーがこの先で待ってるから、じゃあね」


持田は手を軽く振り、冷たい夜の闇へと消えていく。


「はい。僕は歩いて帰ります」


田中は震える体を引きずるように足早に寮へと向かった。

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