AI教師の異変と校長室の密約
ゾーン社では開発部門の責任者がAI教師の異変に気付く。AI学校の1年B組に新型として導入されたAI教師。その性能を旧型モデルと比較し、優位性を検証する目的でログ分析を行った結果、特定生徒への攻撃的プログラムが発生している事を確認する。
責任者は即座にAI学校に連絡を取り、技術的な対応を要請。現場で教育者と技術者を併用して働く磯部教頭に詳細なフィードバック収集を命じ、異常の原因解明を進めるよう指示が下された。
磯部教頭は事態を重く受け止め現場でモニタリングを開始。異常の痕跡を確認した後、迅速に報告書を作成し、できる限り早く提出するとゾーン社へ伝えた。
その日の午後、田中校長が来校。校長室へ入ると磯部教頭を呼び寄せ、近状報告の確認を取り行う。
「磯部、どうだね。新型のアレの運用は問題なく進んでいるか?」
「はい…現在のところ、問題なく運用できております」
「そうか。それで、例の破壊事件の犯人はまだ捕まっていないのか?」
間もなく1学年の授業が終わる時期に差し掛かっていた。その前に、AI教師の破壊事件の犯人を特定するよう、ゾーン社からは何度も厳しい指示が下されていた。
「はい…それが、本校の生徒の犯行の可能性が高いのですが、まだ特定には至っておりません」
磯部教頭は肩の力を抜き、困惑した表情で答える。その瞬間、田中校長の顔が厳しく歪む。
「そんな報告は不要だ!いいか?ゾーン社には本校が不利になるような情報は絶対に上げるな」
「…といいますと?」
磯部の声は緊張でわずかに震える。
「外部からの犯行に仕立て上げなさい。万が一本校の生徒の仕業だと知られれば、問題事案として取り上げられる。そして政府からの補助金が下りない可能性が出てくる。くれぐれもこの問題が繊細であることを認識して行動するように」
「…はい。その件については常に注意しております」
磯部教頭は一礼し短く答える。
「もういい。戻りなさい」
校長室を出た磯部教頭は歩きながら深いため息をつく。
「困ったものだ…」
自分のデスクに戻ると、冷めかけたマグカップのコーヒーを手に取り一口啜る。ほろ苦さが口内に広がるが、胸に残る重苦しさは消えない。
磯部教頭の目には、田中校長がAI学校そのものよりもゾーン社の利益を最優先にしているように映っていた。
AI教師の運用に問題が提起されれば、単に政府の補助金が打ち切られるだけでは済まない。ゾーン社の株価が下落し、さらには企業としての信用を失う危険性もある。そのため、田中校長はどんな不都合な事実も隠蔽するよう厳命していたのだ。
思い返せば数か月前、ライバル企業であるIT大手のボーグル社が新たにAI教師プロジェクトを立ち上げると発表したニュースが流れるや否や、ゾーン社の株価は瞬く間に10パーセントも下落した。その一件以来、田中校長はいつも以上に神経を尖らせているようにも見えた。




