寮内会議
その夜、織田の部屋には男子4人が集まっていた。部屋の空気はどこか重く、みんな真剣な表情になる。
「毎朝俺の机の上に置かれる薔薇の花は一体誰がやってると思う?」
「お前のことを嫌ってる奴だろ」
悪びれもせず至極真面目な顔で発言する京本に、織田は眉間にしわを寄せる。
「……」
「それが誰なのかを聞いてるんだと思うけど」
山崎が呆れたように口を開くと田中が思わず笑い声を上げた。
「ハハハ、さすが京本くんらしいね」
「呑気に笑ってるけど、田中、お前は誰がやったと思ってるんだ?」
織田は田中に目を向け、少しイラついたように問い詰める。
「さぁ…見当もつかないけど。織田君は心当たりないの?」
「俺の考えだと、お前かなって思ってる」
「おいおい、何言ってるんだよ。田中がそんな度胸のあることできるわけないだろ。なぁ、田中?」
京本が慌てて声を上げる。
「……う、うん」
「どうして田中君を疑うんだい?何か根拠でもあるのかい?」
「ああ、あるさ。昨日、学校に置いていたシャーペンの芯の色がいつの間にか変わってたって話をしただろ?その芯の色、赤色を俺が言うよりも先に田中は知ってたんだよ。なぁ、そうだろ?」
「そ、それは……」
「まさか・・・そんなことがあるのか?おい、何とか言えよ!」
明らかに動揺する田中に京本が声を荒げる。
「そ、そんな気がしたから赤色かなって言っただけだよ!ぼ、僕がそんなことするわけないじゃないか!」
しかし、その声は不自然に震えていた。山崎は冷静に織田を見つめながら頷く。
「なるほどね。織田くんの見解には筋が通ってる。AI学校の校長が彼の父親だって話もあるし、何か命令でもされたのかもしれないね」
「違うよ!父さんがそんな命令をするわけがない!」
「じゃあ、誰に指示されたんだ?お前が単独でやるわけないからな。もうバレてるんだよ田中。大人しく白状しろよ」
織田がじりじりと詰め寄る。
「ぼ、僕じゃない!」
言い終わるや否や、田中は勢いよく立ち上がり、部屋のドアを乱暴に開けて飛び出していった。部屋に残された3人はしばらくその場に立ち尽くしていたが、織田がその場に座るように促し、小さく吐き捨てるように呟く。
「あの野郎……」
「しかし、どうして田中君がこんなことをする必要があるんだろうね?」
「まだ確定したわけじゃないだろ。本人は否定してるんだしさ」
京本がやや苛立った様子で口を挟む。
「明日の朝、あいつを見張っててくれないか?AI学校の入口は朝6時に施錠が解除される。みんなが登校するのは8時ごろだから、もし田中がそれより早い時間に寮から出ていくのを見つけたら――犯人確定だ」
「そうだね。今夜はもう21時を過ぎてるし、学校に入るのは無理。でも、明日の朝、こっそり寮を抜け出すところを押さえれば確証が持てるかもしれない」
山崎は冷静に状況を整理するように言葉を返す。
「でも田中がそんなことをするか?そもそも何が目的なんだ?」
「それについては俺にも気になることがある」
「気になることって?」
織田は今日起きた出来事をゆっくりと説明した。オイルがまかれた屋上階段、散らばる植木鉢の破片。そして自分がそこで怪我をしたこと。
「オイル……また不穏な出来事がこの学校で起きてるみたいだね・・・」
「それも田中がやったって言いたいのか?いや、待てよ……AI教師に指示されて屋上に行ったんだよな?じゃあ、黒幕はAI教師なのか?」
困惑したように頭を抱える京本に、織田は静かに言葉を続けた。
「昨日の件もそうだけど……俺、もしかしたらAI教師の標的になってるかもしれない」
「でも新型のAIだろ?入れ替わってから何か悪いことでもしたのか?心当たりは?」
「全くない。何もしてない」
織田は首を振る。
「じゃあ、壊された過去のAI教師のデータが引き継がれてる可能性が高い・・・と考えているのかい?」
山崎は考え込むように顎に手を当てながら確認をする。
「恐らくそうだと思う」
「マジかよ……恐ろしいな。俺が夏休み前に自主室送りにされたことも引き継がれて、知ってたりするのかなぁ」
「まぁ、可能性としては否定できないね。そして、AI教師が指示を出す相手は限られているはず。何らかの弱みを握っているからこそ、特定の人物に命令を・・・・行っているのかもしれない」
「とにかく実行犯を捕まえないといけない。俺は怪我までしてるんだ。いくらなんでも悪質すぎるだろ」
「よし、明日早起きして田中の行動を見張っとくよ」
京本は頷きながら立ち上がった。
「助かるよ。ありがとう」
「話は変わるけど、一つ聞きたいことがあるんだ。今日の放課後、花咲さんを学校で見かけなかったかい?」
山崎が急に話題を変える。
「どうして?」
「寮の部屋をノックしたけど、返事がなかったんだ。普段は必ず返事があるんだけど……ちょっと気になってね」
「普段って何だよ?」
京本がすかさず突っ込む。
「放課後、花咲と広瀬が一緒に片付けを手伝ってくれたよ。あの二人、意外と仲がいいみたいだな」
織田はさらっと伝える。
「そうなんだよ。最近あの二人、いつも寮の部屋で一緒にいるんだ。非常に怪しいと思わないかい?」
その言葉に織田と京本は顔を見合わせ、次の瞬間同時に声を上げた。
「お前だろ、怪しいのは!」
「・・・え?」
山崎は少し驚いたような表情で身を引く。
「じゃあ、部屋に戻るわ。明日朝早いからな」
京本が立ち上がり、軽く背伸びをしながら言った。
「よろしく頼む」
京本がドアを閉める音が響き、部屋には再び静けさが戻った。山崎も椅子から立ち上がり織田に声をかける。
「僕もそろそろ部屋に戻るよ」
その言葉に織田がふと思い出したように尋ねた。
「あ、そういえば掲示板はどうなってるんだ?最近全く見てないけど」
「ああ、コメントはたまに見かけるけど、荒らされてほぼ機能してないよ」
「荒らされてる?どんな風に?」
「新しいコメントが一つ投稿されると、それを埋めるように全く関係ないコメントが10個ぐらい連続で投稿されるんだ。それでまともな会話が成立しない」
「具体的にはどんな内容なんだ?」
「唐突にファッションやコスメ、食べ物の話題とか……何の一貫性もない。まるで自動で投稿されてるみたいだよ」
「……なんだそれ。嫌がらせか?」
「さあね。とにかく、今はまともに使えない状態さ。じゃあ、僕はもう戻るよ」
山崎は軽く手を振りながら部屋から出て行った。




