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AI教師  作者: AKi
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一本の赤い薔薇

あれから何事もなく学生生活を送っていた織田が再び違和感を感じたのは、冬休みが明けた1月、三学期に入ってからだった。いつもと変わらない朝。織田が学校へ登校すると、机の上に一本の薔薇の花が置かれていた。「誰だよこんな事した奴は」と周りを見渡すも、同級生たちは首を傾げ「知らない」と返事をするのみ。


「俺達が教室に着いた時から薔薇の花がお前の机の上に置いてあったぜ」


京本が少し興奮気味に話す。


「もしかして花壇係の子が置き忘れたのかも。話し聞いて来るね」花咲が口を挟むと、席を立った。しばらくして花咲が戻って来るも「係り当番の子は心当たりないって」と報告をする。


「・・・そう。別に気にしないからいいよ」


織田は短く返事をすると、教室後方の棚の上にある花瓶の中に薔薇をそっと差し込んだ。


「それでは、本日の授業を始めます」


AI教師の声が教室に響き、いつも通り授業が始まった。


織田は気を取り直し、机の中からシャーペンを取り出す。何気なくボタンをカチカチと押し、芯を出そうとしたその瞬間――


「うわぁぁ! なんだこれ!」


彼の声が教室中に響き渡った。


「静かにして下さい。織田悠馬くん。授業中の私語は慎むように」


AI教師の冷たい声がすぐさま返ってきた。


「あ、す、すみません」


織田は軽く頭を下げると、再びシャーペンに目をやった。だが、目に映ったのはいつもの黒い芯ではなく、何故か【赤い芯】だった。


シャーペンは寮に持ち帰らず、いつも机の中に入れっぱなしにしていた。自分で芯を取り換えた記憶はまったくない。不安が心をかき乱し、鼓動が一気に早まる。机の上に置かれていた一本の赤い薔薇が再び頭をよぎる。


『意図的に誰かに嫌がらせをされているかもしれない』


その可能性を否定できない自分に気づき、織田は授業中、心のざわめきを抑えることに必死だった。


昼休み、図書館でこの事についての話題が会話に上がる。


「お前、授業中になんであんな声出してたんだよ。びっくりしたって」


京本が笑いながら尋ねる。


「そうそう、何かあったの? 虫でもいて机の中から飛び出したの?」


田中も同調する。


「いや、虫じゃなくてさ…。シャーペンの芯の色が変わってたんだよ。黒だと思ってたから、予想外すぎてつい声が出ちゃったよ。自分でも驚くくらいの声量だったから、今思うと恥ずかしいけど・・・」


「なんだ、それだけの話か。そんなの気にする必要ないだろ。全然大したことじゃないって」


「織田くん、もしかして赤い芯を自分で入れたの忘れてただけなんじゃないの?」


田中は首をかしげながら言った。


「・・・え?」


その言葉に織田は動揺する。


「まあ、机の中に放置してたのなら誰かのいたずらの可能性も高いだろうけど。どちらにしても、そこまで深刻に考えることじゃないね」

山崎が冷静に指摘する。


「いたずら…か」


織田は机の上の赤い薔薇を思い出しながら、つぶやくように言った。


「本日は織田悠馬くんに日記係を任命します」


放課後になると教室にAI教師の冷淡な声が響く。


その日、係に指名されたのは織田悠馬ただ一人だった。他の生徒たちはそそくさと帰り支度をし、教室を出ていく。


「じゃ、俺たち先帰るからな」


京本が軽く手を振りながら教室を出ると、織田は一人残された。


「あのう、日記には何を書けばいいんですか?」


彼は教壇の端に置かれた日記帳を手に取り、自分の机に戻ると戸惑いながら尋ねる。


「あなたのシャーペンを使って、『反省しています』と書いてください」


AI教師は間を置かず淡々と応じる。


「え?俺のシャーペンで…?ど、どういうことですか?」


「今指示した通りです。『反省しています』と、名前を忘れずに付け加えて記入してください」


「それは・・・一体、何を反省するんですか…?」


だが答えはなく、無言のプレッシャーだけが重くのしかかる。織田はしぶしぶ日記帳を開き、震える手でシャーペンを握った。書きたくないという思いとは裏腹に、殴り書きのような文字で紙面を埋める。


『反省しています 織田悠馬』


「こ、これでいいですか…?」


赤い文字で書かれたページをAI教師のデジタル液晶画面に見せる。


「はい。結構です。それでは、日記帳を職員室へ持っていくように」


織田は無言で日記帳を手に取り、教室を飛び出した。足早に廊下を歩きながらも、胸の内は緊張と心臓の音が脈を打って頭の中は混乱でいっぱいだった。


『昨日も今日も、悪いことなんて何一つしていないはずだ。掲示板への書き込みだって、あれ以来していない。授業態度だってちゃんとしていた』


それなのに、なぜ?何を反省すればいいのか。AI教師に促された理由がどうしても理解できない。


「失礼します!」


織田は職員室のドアをノックし、少し緊張した様子で中へ入る。

室内には磯部教頭、武田教師、そして上沼保健師の三人がデスクに着いていた。それぞれが異なる表情で何か会話を交わしていたが、織田の声で一瞬にして静寂が訪れる。


「日記帳を持って来ました・・・」


織田が控えめに声をかけると、武田教師がゆっくりと席を立ち、こちらへ向かってくる。


「おう、渡せ」


「はい・・・どうぞ」


織田は手に持った日記帳を差し出すと、武田教師は無造作にそれを受け取る。


日記帳のページを無言でめくりながら、武田教師の視線が今日の日付のページで止まる。そこから数秒間、言葉も表情も動きを見せないまま文字を凝視していた。


「もう帰っていいぞ」


その短い一言の間にも、磯部教頭と上沼保健師の視線が織田を鋭く刺していた。無表情ながらもどこか冷たく、不穏な空気をまとった視線だった。


「失礼しました」


織田は一礼すると視線を背中に感じながらも、恐る恐る職員室を後にした。



放課後の職員室。

静まり返った空間で、武田教師が椅子を引き苛立ちを抑えた声で切り出した。


「教頭、あの日記……どう考えてます?」


「どう、とは?」


磯部教頭は手元の書類をそっと伏せ、眉をひそめるように視線を上げた。


「織田の反応がおかしい。あれは何か隠してますよ。少なくとも普通じゃない」


机の横で書類を整理していた上沼保健師は、二人の会話がちらりと聞こえたものの、特に興味を示さず淡々と作業を続ける。


教頭は少し間を置いて一段低い声で静かに答えた。


「……決めつけるには材料が足りませんよ、武田教師。わたしたちは教育者です。疑いだけで動いて、生徒を追い詰めるわけにはいかないでしょう」


武田は唇を噛むように沈黙する。


「でも、結局どうするんですか?放置、ですか?」


上沼保健師がようやく軽く視線を向けたが、口調はそっけない。


「放置というより……見守る、ですね。事件にする必要はありません。曖昧なままにしておくことで丸く収まることの方が多いんです」


「……それで本当にいいんですか?」


「いいんですよ。学校に余計な騒ぎを起こすより、ずっとね」


教頭の声は落ち着いていたが、そこにはこれ以上深入りするなという明確な意志が宿っていた。上沼保健師は興味のない様子で「じゃ、私もう上がりますね」とそそくさと席を立つ。


残された武田は不満げに眉を寄せながらもそれ以上反論できず、重たい沈黙だけが職員室に残った。



織田は部屋に戻るなりそのままベッドに倒れ込んだ。心労が限界で、そのまま深い眠りへ落ちていく。目を覚ますと時計は20時。食堂へ急いで向かうが、広い部屋には誰もいない。


「……俺だけ?」


静まり返った空間で一人食事を済ませ、部屋へ戻ると再びベッドへ潜り込む。今日の出来事を反芻する余裕もなく、重たい疲労に引きずられるように眠りにつく。

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