織田と山崎の秘密の会話
ゴミ捨て倉庫から部屋に戻ると、織田は深いため息をつきながら椅子に腰を下ろした。そしてこれまでの経緯を山崎に話し始める。
「なるほど…つまり、AI教師の対応が嫌がらせに感じて、精神的に追い詰められた末の行為だったというわけか」
山崎は腕を組みながらじっと織田を見つめる。
「だって、3年間も耐えられると思うか? あんな冷たい対応をされ続けたら、誰だって無理だろ」
「確かに。でもAIプログラムの成長過程で、一部の生徒に対して対応を変え、反応を探る実験をしていた可能性もあるかもしれない」
「そんなプログラムの実験に俺たち生徒が利用されてたまるかよ!」
織田は拳を握り締め机を叩く。
「気持ちは十分わかるよ。ただし、相手は感情を持たないAI教師だ。僕らが感情的になってムキになるのも、考えてみればおかしな話じゃないか?」
「で?結局、何が言いたいんだよ。チクるつもりか?」
「と、とんでもない! 勘違いしないでくれ。僕は君の仲間だ…と思っている。せっかくこの学校で出会えたんだし、一緒に卒業したいんだよ。だから誰にも言わないし、このことは頭の中の記憶の扉に鍵をかけて閉じ込めておくよよ」
織田はしばらく黙り込んだ後ぽつりとつぶやく。
「そうか…俺もやり過ぎたと思ってるよ。でも、あの時は感情を抑えられなかったんだ」
「もう終わったことだし過去を悔いても建設的じゃない。それにB組には新しいAI教師が投入されたようだし・・・」
「そうだな。掲示板への書き込みもやめるよ。あれも寮内から学校のサーバーを通じて、AI教師にバレてたんだろ?」
「恐らく・・・まぁ賢明な判断だね」
「お前が作ったんだからな。確かに俺がのめり込んで書き込んだのは悪いけどさ、匿名だからバレないって、普通は思うだろ?」
「ふふん。今の世の中、ネットワークは常に誰かに監視されていると思っておいたほうがいいよ。ましてや、このAI学校は最新の機器が揃っているからなおさらね」
「…そうだな。心を入れ替えるよ。新しいAI教師についても、あまり刺激しないようにしないとな。卒業までの3年間、他の生徒と平等に授業を受けたいし」
「そんなに不公平さを感じていたのか…」
ポツリと呟く。
「じゃあ、俺はそろそろ寝るよ。部屋の片づけで無駄に体力使ったしもう限界」
織田は座ったまま背伸びをして声を出す。
山崎は軽く頷き部屋を後にした。自分の部屋に戻ると、どこか満足げな笑みを浮かべながら椅子に腰を下ろす。
「あはは。人間がAIに感情を揺さぶられて、こんな行為に及ぶなんて…ははは、なんて時代を生きてるんだ僕らは」
彼の笑い声が誰もいない部屋に響く。その笑い声は興奮を隠しきれず、だんだんと大きくなっていった。
「…本当に面白いな、織田くんは」
ぽつりとつぶやき、指先で机をトントンと叩く。
彼の頭の中では、織田の揺れ動く表情や言葉に詰まる瞬間が鮮明に再生されていた。焦り、戸惑い、怯え…それらが山崎にとっては謎を解く手がかりであり、観察の対象でもあった。
「AIに逆らうとどうなるか。人間の心はどこまで持つのか…まあいい。冬休みに入ればしばらく観察もお休みだ」
山崎はふっと息を吐き、ゆっくりとベッドに横たわる。
窓の外には冬の冷たい空気が街を包み込み始めていた。
もうすぐ冬休み。その静けさの先に待つものを想像しながら山崎は目を閉じた。心の奥底で小さく期待が膨らんでいく。
「戻ってきたらまた続きだね…織田くん」
そうつぶやき、山崎は満足そうに眠りについた。




