食堂で意見交換
学校の食堂では先に到着していた京本と田中がテーブルを囲んでいた。目の前には、この日の目玉メニューであるチキン南蛮定食が湯気を立てて並び、二人は楽しげに談笑している。
「おーい! こっち、こっち!」
京本が織田と山崎を見つけ、手を挙げた。
「二人とも遅かったね。授業の終わる時間が伸びたのかと思って、ちょっと心配してたんだ」
田中もにこやかに声をかける。
「いや、ちょっと色々あってね」
山崎が少し苦笑いを浮かべながら答えた。
「どうだった? C組の授業は」
織田もチキン南蛮定食をトレーからテーブルに置きながら、少し早口で京本に問いかける。
「めちゃくちゃ良かった。落ち着いた感じのAI教師でさ、授業もテンポよく進むし、説明もめっちゃ分かりやすかったぞ!」
「それってさ、京本くんがB組のAI教師に怒られたことあるから、少しバイアスがかかってるんじゃない?」
田中は意地悪そうに微笑む。
「そんなことないって! やっぱり相性の問題だよ。俺にはC組のAI教師がピッタリなんだって。で、お前はどうなんだよ?」
「僕は今のクラスのAI教師のほうが好きかな。女性の声だし、なんだか聴きやすいんだよね」
「マジかよ…信じられねーな」
山崎はそのやりとりを聞きながら、感心したように頷く。
「なるほど、声の違いで授業の聴きやすさも変わるもんなんだな」
「で? A組の授業はどうだったんだよ?」
京本はふと思い出したように山崎に問いかけた。彼はすでに定食をほぼ平らげ、口の中いっぱいにチキン南蛮を頬張りながら話す。
「おちゃらけた感じのAI教師だったよ。授業中にダジャレとか挟んできて、生徒を楽しませようとはしてたんだけど…センスはイマイチだったかな」
田中は興味津々の様子で前のめりになり、小さなメモ帳に何かを書き込みながら言った。
「そんなAI教師もいるんだ? ちょっと受けてみたいかも」
そして、織田に視線を向ける。
「授業の内容は分かりやすかった? 織田くん」
「ああ、まぁな」
織田はスプーンを動かしながら、冴えない表情で短く答える。チキン南蛮定食は彼だけまだ半分も食べきれていなかった。
「おーい、どうしたんだよ。さっきからずっと表情が暗いぞ。具合でも悪いのか?」
「別に……。色々あってな」
「色々ってなに?」
その曖昧な言い方に、田中がすかさず首を傾げる。
織田は沈黙を保ち答える気配もない。隣に座っていた山崎が溜息をつき、代わりに説明を始めた。
「彼ね、さっき廊下で武田教師に叱られたんだ。思いっきりビンタされてね。それで気が落ち込んでるんだと思う。あんまりいじらないであげてくれ」
この話を聞いて京本と田中は驚き思わず目を見開いた。
「どうして武田に殴られたんだよ? お前、何か悪いことしたのか?」
「ちょっと失礼なことを言ってしまってな」
「で、ブチ切れられた?」
「そういうこと……」
織田の言葉に納得したのか、京本はそれ以上追及せず、スプーンを手に取り再びチキン南蛮を頬張り始めた。一方で、田中はなぜか手元のメモ帳にペンを走らせている。
「君、さっきから何を書いてるんだい?」
山崎が不思議そうに声をかけた。
「こ、個人的な日記だよ」田中は少し慌てながら、メモ帳を手で覆う。「最近、思ったことをメモする習慣をつけようと思ってさ。後で読み返したら役に立つかもしれないしね」
山崎はじっと田中を見つめ、少し訝しげな表情を浮かべる。それでも織田と京本は特に気にする様子もなく、田中のメモ帳には目もくれなかった。
「お前、真面目だな。食堂でも文字書いてるのかよ。俺らの会話なんて何の役に立つんだよ」
京本が冗談混じりに言うと、田中は少し顔を赤くしながらメモ帳を閉じ、ポケットにしまい込んだ。
その時、昼休み終了の予鈴が微かに聞こえ、教室へ急ぐ学生たちのざわめきが食堂内を満たし始めた。
「みんな授業始まるよ。早く戻らないと!」
明るい声で呼びかけながら花咲が近づいてくる。
「はっ、もうこんな時間だ」山崎が驚いて腕時計を確認し、織田に視線を向けた。「無理せず、残したらどうだい?」
「そうするよ。遅刻したらA組にも迷惑かけるしな」
「じゃ、俺ら先に行くぞ」
京本が立ち上がり、花咲の後を追うように食堂を出ていく。田中もその後ろに続いた。織田は席から立ち上がると、食べ残したチキン南蛮のお皿を乗せたトレーを返却口に戻した。




