仲間外れの生徒
5時間目の授業は数学。
織田は席を立ち「よろしくお願いします」と教壇に向かって挨拶する。すると、教壇に設置されたAI教師のモニターが反応し、画面に文字が浮かび上がると同時に柔らかな音声が響いた。
「はい。勉強頑張ってください」
その声は、いつもよりも少し明るく感じられた。返事をもらえたことに、織田はホッと胸をなでおろす。心に渦巻いていたネガティブな考えが、少しずつ薄れていくのを感じた。
『考えすぎてただけかもな』そう自分に言い聞かせ、織田は冷静さを取り戻した。AI教師が生徒に嫌がらせをするなんて非現実的だ。きっと思い込みが過ぎたのだろう。気を取り直し、平常心を保ちながら授業を受けることにした。
しかし、AI教師の声が次の言葉を告げると、教室の空気が一変する。
「授業を始める前に、本日は数学のテストを受けてもらいます」
突然の抜き打ちテストに教室内がざわつく。
「まじかぁ。昨日復習しておけば良かった」
「普段から授業に集中してるし、大丈夫だよね」
「テストの難易度が気になるなぁ」
そんな声が飛び交う中、AI教師は淡々と次の指示を出す。
「職員室にテストの問題用紙が入った紙袋が置いてあります。織田悠馬くん、今すぐに取りに行ってください」
教室が静まり返り、1年B組の全員が一斉に織田を見つめる。
「俺がですか?広瀬じゃなくて俺が取りに行くの?」
「そうです。早くしてください。私の指示に逆らわず従ってください。生徒全員に迷惑がかかることになります」
AI教師の言葉は容赦なかった。織田は不満げに視線をさまよわせながらも、「はい…分かりました。取りに行ってきます」と返事をする。
反抗したい気持ちは山々だったが、教室中の視線が自分に集まる中で、駄々をこねて時間を無駄にするのも得策ではないと判断し、ため息をつきながら席を立つと、ぶっきらぼうに返事をして不機嫌そうな表情を浮かべたまま教室を後にする。
織田が駆け足で職員室へ向かうと、すでにA組とC組の生徒がそこにいた。どうやらそれぞれのAI教師から、試験用のテスト用紙を取りに行くように指示を受けているようだ。
A組の子は天然パーマで髪がモサモサしている太った男子で、C組の子は眉毛が消えかかっているヤンチャな不良っぽい態度の男子だった。二人の様子を見て、織田は疑問を抱きながら声を掛ける。
「君たちもAI教師に指示されたの?」
「そうだよ。ダイエットになるから行けってさ」
太った男子が苦笑しながら答える。
一方、不良っぽい男子は睨むような視線を送り、そっけなく言い放つ。
「ああ?別にお前には関係ねーだろ」
その態度に織田は少し眉をひそめたが、反論する気力も湧かない。二人を見比べながら、もしかして、AI教師は教室で厄介者扱いされている生徒を選んで、こんな面倒な雑用を押し付けているんじゃないか?そんな考えが頭をよぎり、少し複雑な気持ちになる。
「君たち、これがテスト用紙だよ」
教頭が静かに言いながら、3人にA4サイズの紙袋を手渡す。
織田は袋を受け取り、中身を確かめる。問題用紙がぎっしり詰まっており、袋を持つ手にはずっしりとした重みが伝わる。「結構重いな」と小さく呟きながら、職員室を後にした。
職員室から教室まで戻ってくると、ドア越しにAI教師の声が聞こえる。どうやらテスト前の説明をしているようだ。
「―それでは、以上の点を気を付けてテストを受けて下さい」
説明が終わるタイミングで、織田悠馬は静かに教室の扉を開け、袋からプリントの束を取り出し、教壇の前に立つ。
「持ってきましたよ。これでいいですか?」
「広瀬さんと二人で協力して生徒達に配布をお願いします」
AI教師の音声が再生される。
指示を受けた織田は、用紙の束を半分に分けて広瀬に手渡す。二人で手際よく配り終えると、織田は静かに自分の席へ戻った。
「1分後にテストを開始します。テストの間、私語は厳禁です」
AI教師が再びクラス全体に向けて声を発する。
教室内は一瞬ざわめき、すぐに沈黙が広がる。織田は席に着きながら、職員室へ行っていた間にAI教師が何を説明していたのか気になり隣の席の生徒に小声で尋ねる。
「俺が教室に入る前に、あれ…AI教師は何か説明してたか?」
「あれ?ああ、テストの注意事項を教えてただけだよ」
その言葉を聞いた瞬間、自分が教室にいない間にAI教師が同級生にテスト試験の注意事項を教えていた事に衝撃を覚える。たまたま偶然の出来事だったのかもしれないが、織田の考えは確信に変わっていた。
「やっぱりそうだ。AI教師は意図的に俺に嫌がらせをしている…」




