作文発表の日
夏休みが終わり9月。
生徒達は夏休みの宿題として一つのテーマに絞って作文を書き、同級生の前で一人ずつ発表する事がAI教師から言い渡されていた。京本もこの日から学校へ復学し、作文発表では反省の弁をノートいっぱいに書き込み、生徒達の前で発表。AI教師は特に感想を述べる事無く、次の生徒へと促す。
織田悠馬は『AI教師についての脅威』というテーマで作文を書き上げていた。主に掲示板で情報を収集していた織田は、批判的なコメントをまとめれば同級生から関心を持たれると思い作成し発表。
テーマ・AI教師についての脅威
【人口知能(AI)の急速な進化は、僕たちの社会や生活に革命をもたらしています。その一方で、雇用の損失が生まれ、プライバシー侵害の懸念や攻撃性の高い兵器利用の可能性もあり、非常に危険性を増していると思います。
AI教師の誕生は教育現場に多くの利益を生み出す一方で、潜在的な脅威もはらんでいます。この脅威に対処するには、透明性向上や倫理的なガイドラインの確立が必要です。国には法的な整備の準備が不可欠で、AI教師の進化を前向きに受け入れるためには、これらの課題に真剣に取組む必要があると思います】
作:織田悠馬
AI教師の前で教壇に立ち発表した織田悠馬。生徒達の拍手はまばらだったが、織田は自分の調査とまとめ方に自信を持っていた。
「発表が終了したら席に着いてください。」
AI教師の冷静な声が教室に響く。
「あ、はい。でもその前に感想を聞かせていただけますか?」
「あなたの作文はさまざまな側面からAI教師に関する問題にアプローチしました。社会において重要な問題となりうる点もあり、持続的な未来を築くうえで理解をもたらすことが重要であると感じましたよ」
「ありがとうございます。しっかりと調べて書き上げました」
感謝の気持ちを伝えると席に着く。他の生徒達も壇上に立ち、作文を次々と発表をしていく。地元の特産品についてや、夏休みの出来事など、当たり障りのない作文がほとんどだった。そんな中、持田由美は『偉大なる創業者』というタイトルで父親が創業したゾーン社について褒め称える作文を発表し、同級生たちを驚かせる。
テーマ・偉大なる創業者
【私の父はゾーン社の創業者です。誠心誠意を胸に、会社経営に全力を注いできた人です。幼い頃から教育熱心な父の影響を受けて、私も勉学に励む日々を送ってきました。AI技術の進歩は目覚ましく、その中で人とAIの共存が大きな課題となっています。あらゆるわだかまりをなくし、調和を実現することが使命だと、父はいつも口癖のように語っていました。
そんな父の姿を見て育った私は、AI学校でAI教師と共に学びながら、彼の志を受け継いでいきたいと考えています。そして、由緒正しい心を育み、未来に貢献できる人間を目指したいと思っています】
作:持田由美
持田は発表を終え、教室内に響く拍手喝采を浴びながら満足そうに席へと戻っていく。その顔には達成感と自信が満ちている。
「あいつの父親、ゾーン企業の会長なのかよ。色々とヤベーな…」
京本は拍手をしながらも、焦りの色を隠せない表情を浮かべていた。
「なるほど。だからあの大胆な行動が可能だったのか…」
一方、山崎は冷静な瞳で持田の動きを見つめ、無表情のまま小さく呟く。
山崎海斗は持田由美が体操服事件の犯人だという事を把握していた。それは、彼が立ち上げた掲示板に写真が投稿されたのを確認していたからだ。ただ、管理人権限ですぐに削除したので、それを見た人は他にはいない。
しかし一つ気になる点があった。その写真が投稿された場所をたどると、AI学校の職員室のパソコンから投稿されていたのだ。IPアドレスを解析した結果、場所までは突き止めたものの、誰が投稿したかまでは判別できていない。
その頃、広瀬は感情を押し殺したかのような無表情で拍手を続けていた。持田の顔を見ることなく、ただ前方だけを見据えている。その冷たい態度とは対照的に、持田は席に着いた後も笑みを浮かべながら教室内を見渡し、周囲の生徒に軽く会釈をしている。
彼女が作文のテーマに父親を選んだのは、ただ賞賛を得るためではない。3年間の学生生活を優位に進めるための、計算されたマウント行動だった。
「皆さん、とても素晴らしい作文を発表しました。この発表内容は学年部会で教師一同に配布し、生徒たちの学習状況と合わせて議論させていただきます」
AI教師が冷静な声で全体に語りかける。
「ええっ?他の教師にも見せるんですか?それは聞いてなかったんだけど、大丈夫かなぁ…」
教室の一角から織田の驚いた声が上がる。
「心配する必要はありません。あなたの作文はとても素晴らしかったですよ」
「本当ですか?それなら安心です…ちょっと内容が過激だったかなぁと思って不安だったんですけど」
「間もなく作文発表の授業が終了します。昼休みは、リラックスした時間をお過ごしください」
AI教師の冷静な声が教室に響く。
昼休みの学校食堂。賑やかな声が飛び交う中、織田、京本、山崎、田中の四人が一つのテーブルに集まる。今日の目玉定食は、うどん定食とハンバーグ定食。
「あの作文、ちょっと言い過ぎじゃない?」
田中は湯気を立てるうどんを啜りながら話を切り出す。
「俺のことだろ?でもさ、本当はみんな心の中で思ってるはずなんだ。だから賛同してくれると目論んで発表したんだけどな」
織田はどんぶりを手にしながらニヤリと笑う。
「そうかなぁ。僕は別にAI教師が脅威だなんて感じてないけど」
「いや、怖いだろ。俺なんか身に染みてるからな。もう絶対逆らわねえ。入学した以上は卒業したいしよ」
京本が割り込むように声を上げる。
「山崎くんはどう思う?」
「脅威でもあり、革命でもある…かな」
山崎はハンバーグを口に運び一息つくと、低い声で答えた。
「ほら見ろ!」織田が笑いながらどんぶりを掲げる。「ハッカー様も俺と同じ意見だ!」
彼は大げさに「ははは!」と笑いながら、うどんの汁を一気にすすり込む。
「それよりもさ、持田の親父がゾーン社の創業者ってのが驚きだよ。あいつを敵に回したら一番ヤバい奴じゃねえか」
「確かに…。京本くんはイエローカード一枚だからね」
田中は少し笑いながら、京本に向けて一指し指を立てた。
「おい、ふざけんなよ!冗談でもそういうこと言うんじゃねえ。しかも冤罪だぞ、あの件は」
「あ、ごめんなさい。つい…」
「いや許さねえ。罰としてうどん一口もらうぞ」
そう言うや否や、京本は横にいる田中のうどんに箸を伸ばし、つるりと一口をさらって口に運ぶ。
「彼女は…持田由美には気を付けた方がいいかもしれない。一族経営のお嬢様は統計的にもわがままな性格の人が多いし、何をしでかすか予測がつかないからね」
山崎は少し低い声で言った。
「そういえば広瀬の父親も酒造会社の社長だったよな。やっぱり、そういう家系だと女でも特殊に育つんだな」
「女は怖い。AI教師も怖い。身に染みてそう思うわ」
その真剣な表情に織田は思わず吹き出した。田中もつられて笑い出し、山崎も微かに笑みを浮かべる。
「なんで笑うんだよ。こっちは真剣に話してるんだぞ」
笑い声がテーブルを囲んだが、その笑い声をかき消すように、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。4人は立ち上がり、食器を流し場に戻すと、仲良く会話をしながら教室へと戻っていく。




