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AI教師  作者: AKi
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体操服事件の真犯人は…


「私は何もやってないからよ。証拠も何もないのに勝手に犯人扱いしてるから、あんたが滑稽に見えて笑ったのよ」


広瀬が肩をすくめながら言い放つ。その目は少しも動揺していない。


「AI教師の言うことには逆らえないんだろ? お前、いつも指示に従って召使いみたいに動いてる。それが証拠だ」


「もうやめなよ。今更言い争っても意味ないよ」


田中が苦い顔で二人の間に割って入る。


「あら、あんたの仲間も呆れてるみたいね。ほんと、男子っていつまで経っても考えることが子供っぽいわね」


広瀬は田中の言葉には目もくれず、挑発的に笑う。


二人が食堂の前で言い争っていると、ドアの鍵が「ガチャ」と音を立てて開いた。


「はい、どうぞ。中へお入りなさい」


食堂のおばちゃんが中から顔を出し、にこやかに促す。


夏休み期間中の特別ルールで、朝食の提供は午前10時からと決められているらしい。


「あー、お腹空いた。花咲さん、行きましょう」


「う、うん……」


花咲は少し気まずそうに織田たちに頭を下げると、広瀬と一緒に食堂へ入っていく。


「ほら、俺たちも行こうぜ。飯食わないと始まらないだろ」


織田が京本の肩を軽く叩いて言った。


「そうだね」山崎が腕時計を見ながら続ける。「12時から自習室で特別授業があるし、早めに食事を済ませておこう」


寮内では通常、朝食は午前7時から提供されていたが、夏休み期間中は10時からに変更されている。そして12時になると、AI教師による特別授業が自習室で開始されるというスケジュールだ。


「なんだよ……食堂10時からかよ。それに一人で静かに飯食えると思ってたのによぉ」


京本が不満そうにぼやく。


「何贅沢言ってるんだ。みんなで食う方が楽しいだろ?」


食堂の中では6人がテーブルを囲んで食事を取ることになった。広瀬と花咲が先に席に座り、その隣に田中が腰を下ろす。京本たち男子3人はその向かい側に横並びで座る。


「随分と仲良しだな」


京本が斜め前の広瀬と花咲に皮肉めいた口調で声をかける。


「そういう訳じゃないけど……たまたま夏休み、寮に残ることになったから一緒にいるだけだよ?」


花咲が少し戸惑いながら答えた。その声には広瀬に気を遣うような響きが感じ取れる・・・。


広瀬は何も言わず俯いたままだった。


その静寂を破ったのは山崎。


「あのう、花咲さんがどうして帰省しないのか、理由を聞いても大丈夫かな?」


「私? 別に大した理由じゃないよ。ただ、父親と一緒にいるのがちょっと億劫で……。夏休み中ずっと家にいるなんて考えるだけで気が滅入るんだ」


「花咲さんって単身世帯なんだよね?」


広瀬がすかさず口を挟む。


「そうなの?」


織田が驚いた顔を向ける。


「うん。母親がいないから、そういうことになるかな。小学5年生の頃からずっといないんだ」


「だからね、かわいそうな子なんだから、あなた達も優しくしてあげてよ。ね、花咲さん?」


「……別に私はそんな風に思ってないよ」


花咲は困惑した表情を浮かべ、首を横に振る。


その瞬間、京本がテーブルに拳を振り下ろし、音を立てた。


「人の家庭事情なんて今はどうでもいい! それよりもさっきの話の続きだ。広瀬、お前が犯人じゃない証拠はあるのか?」


トンカツから立ち上る湯気が京本の顔を覆うが、彼の目は広瀬を真っ直ぐに捉えたまま微動だにしない。


「落ち着きなよ、京本くん」


田中が慌てて制する。


「あのね、私はあんたの『事件』とやらが起きた時間、花咲さんと一緒にいたのよ。これ、完全にアリバイってやつじゃない?」


広瀬は余裕の笑みを浮かべたまま、肩をすくめて言い放つ。


「あ~あ、これ冤罪だよ。京本、残念だったな」


織田が笑い混じりに言った。


「嘘だろ……本当か? 花咲」


花咲は小さく頷く。


「そのことについては本当だよ。京本くんが映っていた写真には時計の時間も映ってたけど、その時間の2時間前から広瀬さんが私の部屋に来ていたの」


「つかぬことをお聞きしますが、一体何をしに花咲さんの部屋へ?」


山崎が怪訝そうに眉をひそめる。


「えっと……パソコンの操作を教えてもらってたの。私、そういうの苦手だから。広瀬さんの方がずっと詳しいし」


「そんなことなら、いくらでも僕が教えてあげられたのに! 僕はホワイトハッカーを目指してるんだ。パソコンのことなら何でも答えられるよ!」


勢いよく言い切る山崎に、一瞬の静寂が訪れる。次の瞬間、織田が声を上げて笑い出した。


「お前さ、ちょっとズレてるよな」


「ズレてる?」


「女子の部屋に男が入るなんて禁断行為だろ。そんなことも分からないのかよ?」


「ちょ、ちょっと待て!」山崎の顔が赤く染まり、声を荒げる。「やましいことなんて全然考えてない! ただ教えることが目的だったんだから、変な誤解はやめてくれ!」


その必死な様子に、周りは一斉に笑い出す。だが、その空気を切り裂くように京本が低い声で呟いた。


「それじゃあ、一体誰が俺の机の中に持田の体操服を入れたんだよ……」


「だから言ったじゃん。今さらこの話をしたって何の解決にもならないって」


一気に場が静まり返るなか、田中がため息をつき言葉をこぼした。


「別に謝罪を求めるつもりはないんだけどさぁ、何か一言あってもいいんじゃない?」


広瀬は淡々とした口調で京本を見据えた。顎に手を置き、肘をテーブルにつけながらその視線を京本に向ける。


「……悪かった」


京本は一瞬視線を彷徨わせたが、やがて口を開く。


「それだけ?」


広瀬はじっと京本を見つめたまま続ける。


「ごめん。俺の勘違いだったわ。もう二度と言わない」


その言葉を最後に京本は黙り込んだ。顔を伏せ、黙々と食事を続けるだけだ。広瀬は勝ち誇ったような表情で鯖味噌を頬張る。


しばらくして、寮の管理室から酒井さんが食堂に入ってきた。彼はどこか疲れた表情で、夏休みになっても実家に帰らない生徒が多いことに、少しだけ呆れているようにも見えた。

酒井さんはトンカツ定食を受け取り、織田たちから少し離れた席に座ると、ひと息つきながら静かに食事を始めた。


「一件落着っと」


織田が軽い調子で言った。


「そうだね、ははは」


田中も笑い空気が緩む。


「一緒に仲良く協力して学校生活を過ごせる方が、みんな楽しくて良いよね」


花咲が静かに口を開く。


その言葉に場の空気がさらに和らいだ。花咲の優しい笑顔に釣られるように、3人も微笑みを浮かべ、美味しい料理を口に運ぶ。暖かな味わいが舌を包み込み、気まずさで固まっていた空間がふっと解ける。


山崎も花咲の言葉に深く頷き、少し照れくさそうに微笑む。その静かな光景に、寮の食堂は穏やかな雰囲気に包まれていく。

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