ホワイトハッカー登場⁉
「成功した!やった、よっしゃ!」
山崎海斗はガッツポーズを決め、顔を真っ赤にして飛び跳ねていた。その勢いでメガネが曇り、視界がぼやけていることにも気づかず、ただ喜びに浸っている。
「…誰だ、お前?」
静かな声で織田が問いただす。
「今、ドア開ける時に鍵は解除したかい?」
織田はドアノブにちらっと視線を落とすが、心当たりはない。戸惑いを隠せず、やや警戒して尋ねる。
「どういうことだ。まさか…何か細工でも?」
「細工だって?いや、違うよ。ハッキングしただけさ」
「ハッキング…?」
「驚いたかい?僕はホワイトハッカーを目指してるんだ。これくらい朝飯前さ」
「もしかして、俺に何か恨みでもあるのか?」
織田は怪訝な顔のまま眉をひそめる。
「いやいや、まったく」山崎はメガネを押し上げながら自信満々に答える。「安心して。君の部屋だけじゃなく寮の全室の鍵をハッキングしてロックを解除してみたんだ」
「じゃあ、なんでわざわざ俺の部屋に来たんだ?」
「えーっと、それはね…僕の部屋が君の向かいだからさ。効率よく実験の結果が知りたくてね」
深夜にも関わらず妙にテンションの高い山崎を前に、織田は静かにため息をつく。
「俺、もう寝るわ。じゃあな」
「ちょっと待って…!」
「まだ何かあるのか?」
「自己紹介がまだだったね。僕は山崎海斗。将来の夢はホワイトハッカーになってサイバー犯罪から人々を…」
「おやすみ」
織田はぶっきらぼうに言い、バタンとドアを閉めた。鍵がかかる音が廊下に響き、山崎は苦笑いを浮かべる。
「ふん、つれないなあ…」
一人つぶやきながら別の部屋のドアノブに手をかけてみるが、施錠されたままだった。
「おかしいな…」
山崎は首を傾げ、自室に戻って急いでプログラムを確認する。すると、いつの間にか全室のロックが再びかかり、寮のセキュリティが通常状態に戻っていることに気づく。
「変だな…」
時計を見ると深夜0時を回っていた。山崎は一抹の疑念を抱えつつも疲労感に抗えず、その日のハッキング作業を中断してベッドに潜り込む。
その頃、寮のエントランスに設置されたモニター画面には「ハッキング強制終了。通常プログラムへ修正完了」という文字が一瞬だけ表示され、その後「ようこそ自然寮へ」「リラックスしてください」といつもの案内に切り替わった。
ふと、トイレを探して廊下を歩いていた京本悟がモニターに目を向けると、一瞬だけ
「ハッキング原因元:山崎海斗」という文字が映った。
「山崎海斗…?誰だ、そいつ」
京本は立ち止まり、不思議そうに眉をひそめる。しかし画面はすぐに「おやすみなさい」「リラックスしてください」の表示に戻り、京本はそれ以上気にせずトイレへと向かう。




