監視の兆候
山崎は、AI高等学校の異変に薄々気付いていた。
寮内に備え付けられたパソコンを使うたびに、彼は毎日欠かさず動画サイトの『あなたへのおすすめ動画』をチェックし、どんな動画が表示されているのかをメモしていた。その積み重ねの中で1学期が終わる頃になると、おすすめされる動画の傾向が明らかに変わっていることに気づく。
・【仲間は必ず裏切る】
・【AI教師には逆らってはいけない】
・【権力に逆らうと損をする】
どれも、まるで今の自分に向けられたかのような動画タイトルだった。
入学当初はキックボードの乗り方や、水族館デートの楽しみ方など、山崎とは無縁の動画ばかりが並んでいた。それが最近では、彼の置かれている状況を暗示するような内容ばかりになっていたのだ。
しかも、こうした動画がおすすめされるのは、自宅から持ってきたノートパソコンではなく、寮に設置されたデスクトップパソコンだけ。つまり、そのパソコンが接続するサーバーをAI高等学校側が管理しているため、生徒が検索した情報を把握できる仕組みになっていた。そして利用状況に応じて、動画サイト側とも個人情報が共有されていることに他ならなかった。
「明らかに監視されてるな……」
山崎は画面を見つめながら、子どもながらに強い危機感を覚えた。
そしてこの頃から、自分の行動の多くがAI教師にも共有されているのではないかと考えるようになっていく。
一方、田中は部屋に戻ると、この日も真っ先にレポート作成を始めていた。一日でも怠ると校長である父親に叱られるため、毎晩必死に書き上げてはメールで送信している。
その夜、メールボックスに父からの受信が1件届いていた。件名は『大事な話、至急』。胸騒ぎを覚えながら開くと短い一文が表示される。
「至急、校長室へ来るように」
「父さんからの呼び出し?何か問題でも起きたのかなぁ……」
田中は不安を抱えながらパソコンを閉じ、急いで寮を飛び出した。午後8時、冷たい夜風が頬を刺す中、AI学校へと足を向ける。
校舎に着き、明かりが灯る職員室を覗くと磯部教頭が一人、椅子に腰掛けてコーヒーを啜っていた。
「おお、田中くん。待っていたよ」
教頭は穏やかな笑みを浮かべ、電子カードキーを持って立ち上がる。
「早く校長室へ行くように」
そう言ってパネルにカードをかざし、低い電子音とともに校長室の扉が開く。田中が入ると教頭も後に続いた。
「校長。ただいま田中守くんが到着しました」
部屋の中央では、堂々たる姿で田中信弘校長が椅子に座っていた。その静かな圧に田中守の心拍数が上がる。
「こちらへ来なさい、守」
促され、田中守は緊張しながら歩み寄る。
「はい……」
校長は机の引き出しから一枚の写真を取り出し、無言で机上に置いた。
「これはどういうことだ。お前は学校で何が起きているのか把握しているのか?」
そこには、京本の机に体操服を押し込む犯人の姿が顔まで鮮明に写っていた。
「僕は……何も知りませんでした。本当に……」
田中の声が震える。
「この学校のプロジェクトが会社にとってどれほど重要か理解しているのか?競争の激しいビジネスで生き残るには、問題を起こさないことがどれほど大事か、分かっているのか?」
田中は答えられず、ただうつむくしかなかった。隣では磯部教頭も緊張した面持ちで立ち尽くしている。
「私の監督不足です。注意を払ってはおりますが、今回の件は予測外でした……」
教頭が深く頭を下げると、校長の鋭い視線が突き刺ささった。
「大変申し訳ありません」
教頭は改めて頭を下げる。
「この件は内密にしなければならない。これ以上問題が広がらないよう、生徒たちをしっかり管理しなさい」
「承知しました」
教頭が強くうなずく。
「守、お前も学校で何が起きているかをしっかり把握し、その都度レポートを提出しなさい」
「はい……わかりました」




