AI教師に逆らってはいけない
織田は部屋に戻ると、パソコンの電源を入れ、何気なく動画サイトを開いた。ふと思い立ち『AI教師』と検索窓に入力してみる。表示されたのはゾーン社によるPR動画の数々だった。どのサムネイルも興味を引くものではなく、織田はマウスをスクロールしてさらに下の方へと目を移す。
すると『あなたへのおすすめ動画』として三つの動画が目に飛び込んできた。
・【AI教師には逆らってはいけない】
・【生意気な学生は自習室へ】
・【地獄への訪問】
この三つの動画タイトルが織田悠馬に対して『おすすめ動画』として表示されたが、それを目にした瞬間、彼は心底ゾクッとした。
【地獄への訪問】は普段からよく読む漫画のタイトルで、特に気にはならなかったが【生意気な学生は自習室へ】の動画タイトルは京本の部屋でつい先ほど会話した内容と一致していたこともあり、監視されているのではないか?という思いに駆られる。
実際は動画サイトのAIによるアルゴリズムで、過去の検索履歴などから興味を示す内容の動画をランダムで表示される仕組みなのだが、それにしてはあまりにもタイムリー過ぎて、織田は何度も目を大きくしてタイトルを見かえした。
「……なんだよこれ」
恐る恐る【生意気な学生は自習室へ】をクリックしてみる。再生が始まると、それは地方の進学校を特集した動画だった。授業についていけない学生が、昼休みや放課後に自習室で自主的に勉強に励む様子を映し出している。内容は平凡で、AI教師や京本の状況とは全く関係がなかった。
「なんだ、タイトル詐欺かよ」
気を取り直し、気分転換のためにお気に入りに登録しているAI教師掲示板サイトを開く。そこでは、同じようにAI教師について興味や不満を持つ人々が集まり、活発に意見を交わしていた。最新のコメントを確認すると、ある投稿が目に留まる。
匿名の名無しさん:『AI教師って人によって態度変えてないか?そんな感じが最近するw』
その言葉に織田は思わず頷く。掲示板を眺めているうちに、自分も参加してみたいという気持ちが沸々と湧いてくる。
彼は少し考え込んだあと、キーボードに指を置き、次のように言葉を落とす。
匿名の名無しさん:『AI教師は日々の学習によって生徒への対応を変化させてるらしいぞ』
書き込みを終えた織田は、何度も自分の投稿を読み返す。掲示板の画面に表示された自分の言葉。それがどこかの誰かに読まれるのだと考えると、不思議な喜びと満足感が胸に広がった。このように思考を言葉にし、知らない誰かと繋がる感覚が心地よく、彼にとって掲示板への書き込みはもはや趣味の域に達していた。
しばらくその余韻に浸った後、彼は動画サイトに戻り、画面をスクロールする。すると、さっき目にした【AI教師には逆らってはいけない】という動画が再びおすすめ欄に表示されている事に気づく。
「まだこれ推してくるのかよ」
織田は軽く笑いながらもその過激なタイトルに刺激され、一度クリックしてみることにした。
再生された動画は、ゾーン社が開発したAI教師を紹介するPR内容だった。再生数は53回で、あまり閲覧されていない。動画の中では研究員たちがAI教師の制作過程を解説し、開発の背景や技術の革新性を語っている。特に目を引いたのは、AI教師に組み込まれた『超知能』についてだった。
「このAIは、現在の人間の知能をはるかに超える判断力を持ち、全ての教育課題に適応できます」
研究員が静かにそう断言する姿が映し出され、その言葉に織田は画面に引き込まれる。
動画のクライマックスでは、ダイナミックなBGMが流れる中、画面いっぱいに『AI教師には逆らってはいけない』という文字が表示された。
動画を見終えた織田は、椅子に寄りかかりながら思わず小さく息を吐く。
「まあ、要するに自社の製品アピールってことか」
動画の意図するところを冷静に理解したものの、特に深く考え込むことはなかった。
しかし、この時点でAI教師による生徒たちへの選別プログラムは密かに稼働を始めていた。だが、それに気づく生徒はいなかった。ある人物を除いて…。




