秘密の試験運用
授業が終わると織田、田中、山崎の三人は急ぎ足で寮へと戻り、京本の部屋の前にまでたどり着くと、織田は勢いよくノックをする。
「いるのか?京本。開けてくれ」
しかし返事はない。
「開けてみよう」
「もう部屋には誰もいない可能性も考えられるよね....」
「入るぞ、開けるからな」
織田は肩をすくめ、決意を込めてそう言うとドアノブを回し、力を込めてドアを開けた。鍵は掛かっておらずドアはすんなりと開いたが、部屋の中には誰の姿もなかった。
「あれ…荷物はそのままだ」
田中が部屋の中を見渡しながら呟く。
「夜逃げでもしたのかな?」
電気をつけても京本の姿は見当たらず、荷物だけがそのまま置かれている。
「退学を言い渡されたショックで、そのまま出て行ったのかもしれないな」
「何か残念だね。最後のお別れの言葉も掛けられなくて」
「記念すべきAI学校初の脱落者は彼になったわけか」
山崎は少し考え込んだ後に口を開いた。その言葉が部屋に響くと、三人は互いに視線を交わしながらまた沈黙が続いた。しかし突然、背後に誰かがいるような微かな気配を感じ取る。
「おーい、誰が記念すべき脱落者だって?ふざけんなよ、お前ら。勝手に人の部屋入ってるしよー」
廊下の奥から軽い調子の声が響く。
その声に三人は一斉に振り向く。そこには息を切らしながらも平然とした表情を見せる京本の姿があった。
「き、京本⁉ お、お前まだいたのか!」
織田が驚きで声を上ずらせる。
「はい?居ちゃダメなのかよ?」
「そういう訳じゃないけど、武田教師が京本くんの机を片付けて、退学したって言ってたから……」
田中が申し訳なさそうに言った。
「ああ、それね。仮退学だよ。本当の退学じゃない。次に何か問題を起こしたら一発アウトってこと。今の俺、首の皮一枚で繋がってる状態ってわけ」
「だとすると、少しおかしいな。君の机は教室から排除されていたけど、仮退学中はどこで何をするつもりだい?」
「まぁ、とりあえず中に入れよ」
京本は軽く手を振りながら部屋の中へ促した。三人は促されるままに部屋に入り、ソファやクッションに腰を下ろす。
「机は寮内の自習室に移されたよ。武田教師から1ヶ月間そこで勉強しろって命令された」
溜息交じりに言葉を落とす。
「自習室があるのか?しかも寮の中に?」
織田が驚きの表情を浮かべる。
「ああ、管理室の奥の部屋だ。俺も知らなかったけど、今日さっそくそこで授業を受けてきたよ」
「一人で?」
「ああ」
「それなら問題は起きなさそうだね」
田中が少し安心したように笑みを浮かべる。
「おい、ふざけるなよ。まるで俺が問題児みたいな扱いをするんじゃねぇよ」
「ところで、授業をする教師は誰なんだい?武田教師かな?」
山崎が疑問を投げかける。
「いや、AI教師だ。しかも、同じB型だってよ」
「B型……俺たちのクラスB組と同じAI教師ってことか」
織田は少し考え込みながらつぶやく。
「そうみたいだね。クラスごとにAI教師のタイプが違うってことは、山崎くんがこの間分析して確認済みだし」
田中の答えに対し京本が得意げに口を挟む。
「ああ、自習室で直接質問して聞いたから間違いないよ。『私はAI教師で、B組のB型と同じタイプです』ってはっきり教えてくれた」
「それを聞くと、他のクラスのAIタイプも気になるなぁ……」
「マジでそれな。1年A組のAタイプのAI教師は性格が陽気らしいんだ。絶対俺と相性いいはずなんだよな」
京本はソファに深く腰掛け、リラックスした様子で言葉をこぼした。
「AIにも人間との相性が存在するのか....」
山崎が少し興味を引かれたような表情を浮かべる。
部屋の中は穏やかで、和やかな空気が広がっていた。友達同士の軽口や笑顔が飛び交い、リラックスした雰囲気に包まれたひとときが続く。
「でも良かったよね、仮退学で済んで。あと1ヶ月も過ぎれば夏休みだし」
田中はしみじみと笑みを浮かべながら言葉を口にした。
「俺たちも自習室で授業受けられないのかな?」
織田が顔を上げて提案する。
「おっ、そうだ!夏休みになれば、希望者は自習室で授業を受けられるらしいぞ」
「本当か?」
「ああ、これもAI教師が親切に教えてくれたんだ」
話に花を咲かせる三人の中で、山崎海斗だけが真剣な表情を浮かべていた。そして彼は静かにだが鋭く口を開く。
「恐らく・・・試験運用だろうね、自習室のAI教師は。それに、自習室のAI教師は恐らくB組型タイプではなくニュータイプだと思うよ」
「ニュータイプ?でもB型タイプだって、さっき京本くんが言ってたけど……」
田中が疑問を口にする。
「僕たち1年B組のAI教師がどうだったか思い出してほしい。彼の態度は京本くんに対して敵視しているかのようだった。それを踏まえると、自習室のAI教師が彼に好意的に情報を与えるとは考えにくい」
「おい、ちょっと待てよ。俺がAIから嫌われてるってことか?」
京本は驚きと不満を混ぜた声を上げる。
「B組型のタイプからは……恐らくね」
「それってもしかして……AI教師に自我が芽生え始めてる可能性があるのかな」
織田は険しい表情を浮かべながら呟く。
「自我というよりも学習しているんだと思う・・・そしてそれに適応した対応を自然と行っている、が正しいのかもしれない・・・」
山崎は考え込むように眉間にしわを寄せながら、静かに言葉を落とした。




