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AI教師  作者: AKi
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京本退学へ

翌朝、AI学校へ向かう生徒たち。


寮を出発した織田悠馬は、重いまぶたをこすりながら眠気と闘っていた。外は暖かな陽光に包まれ、少し湿り気を含んだ朝の空気が心地よい装いを醸し出している。登校途中、彼は田中、山崎と合流し、軽い雑談を交わしながら学校へと向かう。


教室に入ると、普段とは違うざわめきが漂っていた。誰かが話す小声、机の間を行き来する生徒たちの様子が、何か異変が起きていることを示していた。


「……あっ」


織田の口から思わず声が漏れる。彼の視線はいつもそこにあるはずの京本の机と椅子が消えた空間に釘付けだった。


「ん?一つ席が空いてるな」


山崎が状況に気づいてつぶやく。


「うわぁ……」


田中は眉をひそめ、顔をしかめた。


昨日まで京本が座っていた席がぽっかりと空白になっていた。机も椅子も残らず、まるで初めからその場所に存在しなかったように。


そのとき、教室のざわめきが廊下にまで響いたのか、体育教師の武田が校内の見回り中に教室へと入ってきた。


「お前ら、静かにしろ。席について授業の準備をしろ」


その低い声に生徒たちの動きが一瞬止まる。だが、織田はどうしても気になり、武田に声をかける。


「あのう、京本の机がどこにも見当たらないのですが……どうしてでしょうか?」


武田の表情が少し険しくなる。そして言い放った言葉は、教室にいた全員の予想を超えていた。


「あいつは退学が決まった。だから俺が机を片付けたよ」


突然の宣告に教室の空気が凍りつく。織田の胸は急に高鳴り、現実感が揺らぐような不安に襲われた。


「武田教師、誰が京本の退学を決めたのですか?それとも、本人の意思でしょうか?」


質問したのは広瀬凛だった。驚きの表情を隠さないまま、彼女は静かに問いを投げかける。


「校長が決めたんだ。今朝早く、俺が本人に伝えた。京本も納得していたよ」


その瞬間、織田は自分の胸の奥に押し寄せる後悔を抑えきれなくなった。

(どうして、今朝京本の部屋を訪ねなかったんだ……)

彼の脳裏に、京本が寮で一人で過ごしていたであろう時間が浮かんでは消える。もしかしたら、何か話すことができたかもしれない。けれど、今となっては全てが手遅れだった。


「おい。朝、あいつと会ったか?」


織田は田中に向かって問いかけた。その声には焦りと困惑が混じっている。


「まったく。部屋の前は通ったけど、声をかけるのも悪いかなと思って……」


田中は視線を落としながら小さな声で答えた。彼の態度から、後悔の気持ちがにじみ出ている。


そのとき、広瀬が冷めた口調で言った。


「ふん。あいつもバカだけど、身近な友達にも見捨てられて退学に追い詰められるなんて、本当に運がないね」


「その言い方は・・・何か事情を知っているのかい?」


山崎がメガネの縁を押し上げながら、広瀬を鋭く見つめて聞き返す。


「別に何も知らないわよ。ただ、男って本当にバカだよね」


言葉を投げ捨てるように言うと、広瀬は教室の壁に掛けられた時計をちらりと見て、自分の席へと戻った。そのタイミングで学校のチャイムが鳴り響く。


「みなさん、着席してください。1時間目の授業を始めます」


午前9時ちょうど、教室にAI教師の声が響いた。その声は滑らかで、いつもは「おはようございます。今日も素敵な一日になりますように」や「眠い朝もポジティブに乗り切りましょう」といった明るい挨拶で生徒たちを元気づけてくれる。だが、この日はそのいつもの温かみが消え、淡々と授業の開始を告げるだけだった。


織田はどうしても気になり、手を挙げて大きな声を出して質問をする。


「一つ質問があります。京本悟が退学になったとさっき聞きましたが、本当でしょうか?」


教室が静まり返る中、AI教師は一拍の間を置いて答えた。


「はい。事実です。京本悟が犯した罪は悪質でした。彼が今回の状況から逃れることは困難であり、当校の校長が最終決定を下しました」


AI教師の冷静な声が教室に響く。内容は簡潔だが、その言葉の重みは織田の胸にずしりとのしかかった。


AI教師の冷徹な声が教室に響く中、織田は抑えきれない怒りがこみ上げてきた。心の中で沸き上がる感情を抑えられず、思わず自分の机をドンっと叩いた。昨日、寮の部屋で山崎が言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。『写真を撮影したのはAI教師だ』というあの考察。織田は冷静でいるべきだと分かっていながら怒りに我を忘れてしまう。


「なんだよ、これ…あんまりだ。いきなり退学だなんて酷すぎる。犯人だって他にいるかもしれないのに!」


織田は言葉を荒げ、思わず叫んだ。


「写真を撮影した犯人は一体誰なんだ?何とか言ってください!」


「織田悠馬くん。落ち着いてください。撮影した人物は犯人ではありません。問題の本質はその点ではなく、異性の衣服を無断でいかがわしい行為に使用したために起きています」


AI教師の言葉と同時に、液晶モニターには白い文字で一字一句が映し出される。生徒たちは無言でその内容を受け入れていた。


「落ち着いて織田くん。とりあえず席に座ろう」


近くの席から、田中の落ち着いた声が響いた。織田はその言葉に一瞬躊躇したが、やがて深いため息をつき、席に戻ることにした。


「それでは国語の授業を始めましょう」


AI教師の言葉に教室が一層静まり返る。


「今日のテーマは詩の魅力です。言葉の響きや表現方法が美しく、感情や想像力を豊かにしてくれる『詩の基本的な特徴』についてお話します」


AI教師の授業が始まったが、織田の心は晴れなかった。納得できない思いが胸に重くのしかかり、表情には不満の色が浮かんでいた。しかし、他の生徒たちは静かにその話に耳を傾けている。心の中では『とにかく無事に卒業できればそれでいい』と思っているのだろう。教師と衝突することも、面倒なことに巻き込まれるのも避けたい…そんな思いが織田にははっきりと見て取れた。

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