広瀬凛の部屋
18時15分頃
広瀬凛の部屋には、持田由美が訪れていた。
部屋の中は簡素で、アイドルのポスターや可愛らしい装飾は一切ない。唯一目を引くのは、壁に掛けられた『正義』と力強く書かれた掛け軸だ。それはこの部屋の主である広瀬の性格を象徴しているようにも見えた。
そんな彼女の部屋に持田は、京本から不快な行為をされた事への相談で訪れていた。持田は寮ではなく自宅から通っているため、あまり長居はできない。
「わぁ、立派な掛け軸。広瀬さんが書いたのかしら?」
「そうよ。中学の時に書いたの。先生に褒められたのが、ちょっと自慢かな」
「中学生の時から立派だったのね広瀬さん。今回の事もそうだけど、女子が少ないクラスなのに迫力凄いから男子もたじろいでるものね」
「そう?でもね、もし私が持田さんと同じことされたら、男子でもぶっ叩いてると思うわ」
「そう……今日はごめんなさいね。話を聞いてもらって」
持田はため息をつきながら微笑む。
「気にしないで。何かあればいつでも相談して。でも災難だったね、京本のこと」
「そうね。男の人に変なことされたの初めてだから、本当にショックだったわ……」
広瀬の目が一瞬険しくなる。
「……男子はろくでもないからね。お互い気を付けましょう」
「ハハハハ、そうだよね」
その一言に持田は堪えきれず、笑い声を上げる。
持田の笑い声に、広瀬はわずかに眉をひそめた。自分が馬鹿にされたような気がしたが、それを表には出さなかった。
やがて持田が帰り支度を始める。
「そろそろ帰るね。話を聞いてもらえてスッキリしたわ」
「そう。じゃあまたね」
広瀬は手を振りながら送り出すと、ドアを閉め鍵を掛けた。そして小さな声で呟く。
「何こんな時に呑気に笑ってるのよ……変な子」
部屋で一人になると、広瀬は小さな冷蔵庫から紅茶のボトルとドライフルーツを取り出し、丸いテーブルに並べた。ふわふわしたクッション椅子に腰を下ろし、紅茶を一口飲みながらスマホを手に取る。
SNSを眺めていると『AI教師掲示板』という文字が目に留まった。普段は見過ごすような小さなリンクだが、愛校心が刺激され、クリックして確認をする。
掲示板には多くのコメントが投稿されており、学校やAI教師について語られていた。広瀬の指が自然と動き、投稿画面を開く。しばし悩んだ末、タイピングを始める。
匿名の名無しさん:『AI教師は私たちに知恵と規律を教えてくれます。感謝の気持ちしかありません』
画面を見つめながら小さく息を吐く。「こんな感じでいいのかしら……」生まれて初めて掲示板に書き込みをした彼女は、ドキドキしながら初の投稿コメントを何度も読み返す。明日の授業の復習をしながら、しばらくスマホ画面を眺めては、コメントに返事が書き込まれていないか度々反応をチェックしていた。




