持田由美の体操服
寮へ着くと洗濯機が置いてある共同洗濯室へ移動し、湿った体操着を袋の中から取り出すと、乾燥機が備え付けられている洗濯機の中へと入れた。
「間にあって良かったぁ」
ほっと一安心すると、共同洗濯室の壁際にポツンと置いてある木製の椅子に座る。
そのままの状態でいつの間にか50分ほど眠りについていた。既に洗濯も終わっており、洗濯機から取り出すと体操着は乾燥して乾いていた。部屋へ戻るとテーブルの上に放り投げ、その日はそのままベッドに横たわり枕に頭をのせると深い眠りにつく。
翌日。朝が訪れ部屋の中に柔らかな光りが差し込む。京本は目を覚ますと、身体を起こし身支度を整え学校へ行く準備をする。
食堂で朝食を一人で食べ終えると寮を出発し、歩道を進みながら新鮮な空気と共に朝日を浴びて学校へ到着した。
電子カードキーで校舎の入口扉を開けて中へ入り教室まで行くと、生徒達が一ヵ所に集まっており何だか騒がしい声が聞こえてくる。
京本が近づくと、自分の机の周辺に同級生が集まっていた。後ろから彼を呼びかける声がする。
「京本くん。この写真に映っている行為について説明してください」
AI教師のモニター画面に大きな文字が表示され、教室中にその無機質な声が響いた。
「何のことだよ?俺、なんかしたか?」
「おい、机の上……」
織田が低い声で言いながら京本の机を指さした。その指示に不穏な空気を察した京本は、周囲の生徒たちをかき分けながら自分の机へと向かう。
「なんだこれ?」
彼の机の上には数枚の写真が無造作に置かれており、不安を感じつつ一枚を手に取ると、そこには衝撃的な光景が映っていた。
写真には、誰もいない教室で京本が持田由美の体操着を顔に近づけて匂いを嗅いでいる姿が捉えられており、他の写真には、体操着を広げる様子や、それを持田の机の引き出しに戻す様子も収められていた。
「これ……どういうことだよ……」
「最低な男ね。女の子の体操服の匂いを嗅いで、何が楽しいの?気持ち悪い」
広瀬が冷たい声で言い放つ。
彼女の言葉に同調するかのように、教室中の視線が一斉に京本へ向けられる。
「さすがに酷いよ京本くん、これ、早く謝らないと退学になるかもしれないよ」
田中がため息をつきながら言う。
「ま、待てよ!俺は何もしてない!変なことなんてしてない、マジだから!」
京本は必死に弁解するが、その言葉には動揺が色濃く滲んでいた。
「昨日のことだろ?持田も泣いてるんだ。早いとこ謝っとけよ」
織田が冷静な口調で続ける。
「いや、だから俺は……!」
ふと視線を持田の席に向けると、彼女は机に突っ伏していた。声は出していないが、肩を小さく震わせているのが見える。泣いていることは明白だった。
京本は息を呑み、震える声で言った。
「ごめん、持田。そういうつもりじゃなかったんだ。本当に。ただ、昨日、俺の机の中にお前の体操服が入ってて、匂いを嗅いで確認しただけなんだ……」
「嘘つき。匂いを確認する必要なんてある?普通に名前を見ればいいじゃん。ほんと、この男、とんでもない獣だわ」
広瀬は冷笑を浮かべる。
「……信じられない。最低、京本くん……」
持田がゆっくり顔を上げるも、その目は涙で濡れており、声が震えていた。
その言葉が突き刺さるようだった。京本は何も言い返せず、唇を噛みしめる。
そのとき、AI教師の冷徹な声が響く。
「京本悟、至急職員室へ行きなさい」
「え、今からですか?」
普段は冷静なAI教師の口調がどこか鋭さを帯びていた。その場にいた生徒たちが緊張で息を呑むのが感じ取れた。
「この問題が解決するまで、京本悟には授業を受けさせることができません。まず、自分の行動を冷静に振り返り、なぜこのような問題が生じたのかを理解する必要があります」
「そんな大袈裟な……俺は、本当に悪いことなんて何もしてない!」
京本は叫ぶように訴えたが、教室にいる誰も彼を擁護しようとはしなかった。
「AI学校では生徒達が秩序を守り、安全に授業を受けることが非常に重要です。京本悟が問題を起こしたことは学園にとって深刻なことであり、自身の行動に責任を持つことの重要性に気付いて下さい。これは単なる注意喚起ではありません。自分に対する厳しい戒めとして受け止めてください」
AI教師の冷静だが重みのある声が教室内に響く。その厳しい言葉に教室の空気が一層張り詰める。
「おっしゃる通りです。……京本、職員室へ早く行きなよ」
広瀬が腕を組みながら冷ややかな視線を京本に向け、教室の入口を指さしながら、語気を強めて言い放つ。
京本はその場に立ち尽くし、唖然とした表情で言葉を失っていた。
「僕は信じてる……だから、本当のことを先生たちに説明してほしい」
田中が一歩前に出て低い声で言う。涙ぐんだその瞳は、必死に京本を励まそうとしている。
「……ああ、分かったよ。職員室に行ってくる……」
「どうしてこんなことをしたんだよ、お前」
織田の嘆きの声が背後から聞こえたが、京本は振り向くことなく足を動かした。ゆっくりと、重たい足取りで教室を後にする。
ドアが閉まり、京本の姿が見えなくなると、AI教師は淡々とした声に戻った。
「それでは一時間目の授業を始めます。皆さん、着席して出席確認を行ってください」
その言葉に生徒たちは一斉に席につく。だが、教室内には薄暗いざわめきが広がっていた。
「やっと居なくなったな」
「元々変わり者だったし、やっぱりね……」
生徒たちは小声で囁き合いながら、落ち着かない様子で席につく。
「広瀬さん。京本悟の机の上にある写真を集めて職員室へ持っていってください」
AI教師が広瀬に指示を出す。
「はい、承知しました」
広瀬は即座に立ち上がると、机の上の写真を丁寧に集め、束にまとめた。写真を抱えると迷いなく教室を出て行く。
教室が静けさを取り戻し始めたその時、山崎がぽつりと呟いた。
「……おかしいな」




