最悪の日
その日、寮に戻ると京本の部屋に自然と集まり、即席の「会議」が始まった。
織田が真っ先に口を開く。
「バレてたよな、あれ」
「原因はなんだろうね?」
山崎が少し眉をひそめて尋ねる。
「京本くんがやましいことするからでしょ。全部AI教師に丸聞こえだったんじゃない?」
田中はお菓子をつまみながら、小さくため息をつく。
四人は丸いテーブルを囲み、思い思いの姿勢でお菓子をつまみながら会話を続ける。
「マジでびっくりしたわ。AI教師に叱られた後すぐ体育だったからさ。あれ、もし告げ口されてたら本当に危なかったよ」
「ビンタ事件な。懐かしい」
「いや、少し問題起こしすぎだよ京本くん。まだ入学して2ヶ月だよ?」
「2ヶ月もだろ?俺にしてはよく我慢してる方だぜ。先生たちの言うことちゃんと聞いてんだから!」
大きく笑う京本につられ、田中も織田も呆れながら笑った。
しばらくして、山崎がふと思い出したように話を切り出す。
「ところで君たち、僕が作った掲示板は使ってるかい?」
「掲示板?何それ?」
「AI教師への書き込みができる掲示板だよ。織田くんから聞いてなかったの?」
「いや、言うわけないだろ。匿名で好き勝手書ける掲示板なんて。AIに不満ある奴なら興味持つだろうけどさ」
「お前ら、そんなの使ってんの?」
「ほらな?」
織田が京本を指差し山崎へ向き直る。
「まあ、君たちが使わなくても問題ないさ。コメントも順調に増えてるしね」
「増えてるのか?で、どんなこと書かれてるんだ?」
「そうだね……例えばだけど、1年A組、B組、C組のAI教師にそれぞれ性格があるらしい。これは生徒たちのタレコミで分かったんだ」
「マジかよ!AI教師に性格があるって……なんだよそれ!」
京本が身を乗り出す。
「A組はフレンドリーな口調、僕らB組は丁寧でありながらも命令口調、C組は淡々としていてクールらしいね」
「それさ、もしかすると生徒の成績がどう変わるか試す実験なんじゃないかな?効率の良い教え方を探ってたりして」
田中は顎に手を添えながら言葉を落とす。
「最近は、AI教師が特定の生徒にだけ態度を変えてるって書き込みもあるよ」
「マジかよ……やべぇな、それ」
京本は目を丸くする。
その一言を境に部屋の空気が一気に静まり返った。山崎だけは動じずテーブルのポッキーを手に取ると、一本ゆっくり口に運ぶ。それにつられて織田もポッキーをかじった。
「まあ、所詮は匿名の書き込みだよ。本気にするのも馬鹿らしい。気にしないのが一番」
織田が軽い口調で言った。
「だから、問題なんて起こさない方がいいんだって。3年間、全員無事に卒業できるといいよね」
「お前はいつもオドオドしすぎだろ。何をビビってんだ?俺には理解できないね」
「さて。そろそろお開きにしようか。僕は部屋に戻るよ」
山崎が立ち上がりながら話を締める。
「そうだな。俺も眠くなってきたし戻るわ」
織田も欠伸をしながら腰を上げた。
二人が荷物を持って部屋を出ようとしたその時、京本の顔色が急に変わり叫んだ。
「ヤバい……体操服を教室に置き忘れた!」
「はぁ?」
織田が振り返る。
今日の体育はマラソンで、京本の体操服は汗でびしょ濡れ。その匂いが授業中に広がり、近くの生徒に謝り倒していたほどだった。
「まだ学校の入口が施錠されるまで間に合うよな?急いで取って来る!」
京本は慌てて立ち上がり、スリッパを履くと廊下へ飛び出していく。
「おい、もう外は暗いぞ。気をつけろよ」
織田の声が背中に届いたが、京本は振り返らず急ぎ足で夜の廊下に消えていった。




