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AI教師  作者: AKi
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広瀬と花咲の微妙な距離感

翌日、金曜日。


自然言語を理解するAI教師の授業は、生徒たちに違和感も不満も抱かれることなく、静かに受け入れられていた。この日も問題なく授業は進み、生徒の質問に対して、AI教師は的確で満足のいく回答を返していた。


京本も昨日叱られた影響か、授業中はおとなしく過ごしていた。そして放課後、金曜日の係当番が発表される。


「今日は、広瀬さんと花咲さんに音楽室の掃除当番を行ってもらいます」


AI教師の指示に、織田は思わず後ろを振り返り花咲の顔色を伺った。彼女は無表情で、何を考えているのか読み取れない。山崎も彼女の様子を気にしている。


「はい。分かりました。すぐに音楽室へ向かって掃除をします」と広瀬が答える。


この学校は生徒数が少ないため、教室以外の掃除は週に一回、当番制で割り振られていた。


「二人共、よろしくお願いします。音楽室の入り口の施錠は解除しているので、準備が整い次第向かってください」


「行こう、花咲さん」


「…うん」


音楽室の前に着くと、AI教師の言葉通り鍵は開いていた。二人はドアを開け、中へ入ると掃除用具箱から箒を取り出し、掃除を始めた。その時、静かな室内にBGMが流れ出す。


AI教師の液晶モニターが点灯し「リラックスして掃除を始めてください」とメッセージが表示され、軽やかな楽曲が室内に響き渡る。


「ありがとうございます。励みになります。ね、花咲さん」


花咲は「うん」とだけ返事をしたが、どこか気まずそうに終始無言で掃除を続け、早くこの場から離れたいといった様子がひしひしと伝わってくる。


掃除が終わると、二人はAI教師に挨拶し、音楽室を後にする。寮までの帰り道、広瀬は少し歩いたところでふと口を開く。


「なんかさぁ、私のこと避けてる?」


唐突な問いかけに、花咲は少し驚き声を震わせる。


「そんなことないよ。どうしてそう思うの?」


「だって私と目を合わせようとしないじゃん。返事だって、なんかそっけないし」


「別にそんなことないよ」


「そう。ならいいんだけど…何か言いたいことあるならハッキリ言いなね」


「…うん」


沈黙が流れる中、しばらく歩いていると、広瀬が思い出したかのように話を振った。


「そういえばさぁ、昨日、食堂で男子と一緒にいたんじゃない?」


「え?織田くんのこと?たまたま会ったから挨拶しただけだよ」


「ふーん」


「なにか?」


「別に。ただ…強い者には逆らわない方がいいよ。これは生きていく上で大切な事だからさ」


そう言って、広瀬は立ち止まると、寮とは逆の方向に体を向けた。


「どうしたの?」


「あ、ごめん。教室に忘れ物しちゃったから、先に帰ってて」


広瀬が来た道を引き返していく後ろ姿を見つめながら、花咲はぞっとした寒気を覚える。きっとAI教師に告げ口をするんだろうな、と心の中で感じ取ったからだ。



花咲薫が一人で寮へ戻ると、入口付近のエントランスに人影が見え、中に入ると、それは山崎だった。


「どうも…ご苦労様です」


花咲が靴を脱いだ瞬間、山崎が声をかけてきた。


「あ、山崎くん。どうしたの?エントランスで誰かと待ち合わせ?」


「いや…良かったら、これから一緒にご飯でもどうかな、と思って…」


山崎は目を伏せ、少し赤らんだ顔を隠そうとするように、腕に抱えたノートパソコンをぎゅっと抱き寄せた。


「本当に?嬉しい。今から食堂へ行くの?」


「うん!みんなも待ってるし、君が良ければ...早く行こう」


山崎は顔を上げ、満面の笑みを浮かべると、そんな彼の表情を見て、花咲も自然と明るい表情になる。山崎の喜びが伝わってきたのか、軽快な足取りで二人は食堂へと向かった。


食堂に入ると、既に三人の男子がテーブルに座って待っていた。


「おー、来た来た。二人とも、こっちだよ」


織田が手を振る。


「ヒューヒュー、お似合いだなぁ」と京本がからかうと「やめなってそういうの」と田中が軽くたしなめた。


テーブルには湯気の立つすき焼き定食が並んでいる。


「お待たせ、紹介するよ。こちら花咲さん。声かけたら親切についてきてくれたよ」


山崎はみんなに向かって言った。


「こんにちは。一緒に食事しても大丈夫かな?」


「もちろん、歓迎するよ」


織田が笑顔で返し、他の男子たちも温かく迎え入れた。花咲も少し照れくさそうにしながらも、楽しそうに笑顔を振りまく。


二人は並んで座り、早速箸を手に取る。


「今日はみんな同じものを選んだね」


田中がぽつり。


「これを外せるわけないでしょ」


京本は満足そうに肉を頬張る。


その時、織田がふと思い出したかのように口を開く。


「こいつハッカー目指してるんだって。花咲さん、知ってた?」


「ううん、知らなかった」


花咲は少し驚いたように首を振る。


「僕はホワイトハッカーとして企業のセキュリティを守る仕事がしたいんだ。この学校に入ったのも、最新のIT技術、特にAIの技術を学んでおこうと思ってさ」


「すごい…頼もしいね。私は母子家庭だから、少しでも安定して長く続けられる仕事がしたくて。それでAIに興味を持ったの」


「それなら看護師とかの方がいいんじゃないの?」


織田が言うと、花咲は首を振りながら笑う。


「私、体力が全然なくて…。人とコミュニケーションを取る事は好きなんだけどね」


「そういえば、体育のマラソンでも後ろの方だったね」


山崎が思い出したように言うと、花咲は恥ずかしそうに「うん」とえくぼを膨らませる。


「おい、体育の話はもう勘弁してくれよ」


京本が左頬をさすりながらぼやくと、他のみんなは思わず「あはは」と笑い出す。


「あれはやばかったよな。花咲さんも見てたでしょ?」


「うん、すごかったし、ちょっと怖かったよ。大丈夫だった?」


「もう大丈夫だよ。それに俺、あれ以来筋トレ始めたんだ。体鍛えて見返してやろうと思ってな」


「筋トレ?」と田中が興味津々で問いかけると、京本は「ああ。俺の部屋、今は物で溢れてるんだ。通販でプロテインとか買いまくってからな」と笑いながら言った。穏やかな会話が続く中、ふと、食堂の入り口に広瀬が入ってくるのが視界に入る。


「おっ」と織田が小さく声を漏らし、山崎と花咲も反射的に後ろを振り向く。視線が広瀬とぶつかり、無言のまま、微妙な空気が一瞬漂う。やや気まずい沈黙の後、田中が口を開いた。


「今日で入学してから1週間が経ったけど、みんなこのAI学校についてどう思ってる?」


場を和らげるかのように話題を変える。


「俺はまあ、楽しいかな。校舎も綺麗だし、先生の数が少ないのも悪くないね。2階や3階の廊下も思いっきり走れるしさ」


「山崎くんはどう思う?」


「普通かな。大人が少ないのは利点だよ。年寄りの考え方は成長に対して害悪だからね。それに、AI教師の仕組みはこれからどんどん普及するだろうし、人間の教師は補助役として残るかもだけど」


「花咲さんは?」


「驚きの連続かなぁ。AIの先生の授業を受けるのも初めてだし…不安もあるけど、今は楽しんでるよ」


隣で聞いていた山崎は満足げに微笑んでいた。


織田がふと「お前はこの学校についてどう思ってるんだよ、田中?」と逆に尋ねると、田中は少し考え込み「僕は…すごい時代だなって感じる。設備もそうだけど、教師の数を最低限にしても授業が何の問題もなく進むことに驚いてる」


「織田はどうなんだよ?」


京本が問いかける。


「うーん、少し不気味に感じる点もあるかなぁ」


「どういうところが?」


田中が興味を持って尋ねる。


「みんな当たり前のように自然に受け入れているけど、俺たち人間がAIの意見や指示を聞いているのって…少し前までは信じられないようなことだろ?なんだか不思議で…まあ、何も問題が起きなければいいけどな」


「へぇ、そう感じてるんだ」


「ははは、気にしすぎだって。今の時代、人間もAIも大して考え方に違いなんてないだろ」


京本が笑いながら言うと、山崎は少し首を傾げる。


「いや、むしろこの学校に配置されているAI教師は最新型の超知性みたいだから、人間よりも賢い可能性だってあり得るよ。織田くんが不安に感じるのも無理ないさ」


「さすが山崎くん、詳しいんだね」


田中は感心したように相槌を打つ。


和やかに会話が弾んでいると、トレーにかつ丼定食を乗せた広瀬がこちらに近づいてきた。


「来るぞ」と、織田が小声で伝えると、みんなは慌てて自分たちのトレーの上の食器を揃え始める。


「隣、座ってもいい?花咲さん」


「…どうぞ」


少し戸惑いながら花咲が答えると、広瀬はトレーをテーブルに置き、椅子を引いてスッと席に腰掛けた。


「ごちそうさま!」


織田が声を張り上げ、立ち上がると、男子たちも次々と席を立ち、テーブルから離れていく。


「さあ、僕らも行こう、花咲さん」


山崎が促すと、花咲も「うん、ごちそうさまでした」と静かに答え、席を立った。


ちょうど広瀬が隣に座ったタイミングで、みんなはトレーを片付け、速やかに食堂を後にする。


「…あれ?私、避けられてる?」


広瀬が呟き軽く舌打ちをすると、一人でかつ丼を食べ始めた。先ほどまでの賑やかさは過ぎ去り、食堂には静かな空気が広がっていく。

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