AI教師掲示板の完成
部屋の前に立つと、織田はドアを強めにノックした。
「おい、いるんだろ。開けろよ」
ドアが開き、山崎が怪訝な顔をして現れる。
「うるさいなぁ。静かにしてください」
「お前がそれ言うなよ。それより、ちょっと中に入ってもいいか?」
「…どうぞ。ちょうど見せたいものもあるし」
部屋の中は薄暗く、唯一の明かりは彼専用のノートPCの周りだけが照らされていた。
「これがさっき言ってた例のやつか?」
「そうだよ。もっと近くで見てみて。僕が作った、AI教師掲示板だ。すでに書き込みが3件あるよ」
彼はマウスをクリックし、掲示板の画面を織田に見せた。
匿名のコメント:「なんだこれw」
匿名のコメント:「初コメちーっす」
匿名のコメント:「AI教師の秘密を書いてもいいの?彼女の年齢は37歳だよ~w」
「うわ、本当に書き込まれてるじゃん」
「これでAI教師に対しての監視の目ができた。卒業まで僕がこの掲示板を運営するつもりだよ。これで彼らも少しは抑止力を感じるだろう」
「この学校の誰かが書き込んでるってことか?」
「そうさ。ただ、匿名だから、誰が書いたかまでは分からないけどね」
「お前、こういうの慣れてるな。まさか、前にも同じようなことをやったことがあるんじゃないか?」
「ビンゴ。中学の時にも学校の裏掲示板を作って運営してたんだ。そのとき、先生同士の不倫を目撃したって書き込みがあって、校内でも話題になった。結局、その先生は停職処分にされてさ」
「なるほど。それが今回の復讐に繋がるってわけか」
「そうなんだ。しかもね、不倫を目撃したって書き込んだのは、別の先生だったんだよ。笑えるでしょ?」
「どうやって分かったんだ?」
「書き込まれた時間が夜の21時頃で、職員室のPCからのアクセスだったんだ。ただ、誰が操作して書き込んだかまでは特定できなかったけどね」
山崎の声は上機嫌で、表情はどこか愉快犯のようにも映った。
その時、ふと織田は食堂での会話を思い出し、自然な口調で切り出す。
「そういえば、さっき食堂で花咲と話したんだけど…」
「彼女と!な、何か言ってた?」
「『大袈裟にしてごめんなさい』だってさ」
「彼女が謝ることでは決してないのに…怖がらせてしまって、申し訳ない」
「なら、直接彼女に言えばいいじゃないか」
「…断る」
「はぁ?お前、やっぱり変わってるな。恥ずかしいのか?」
「僕は人に心を開かないんだ。人の気持ちはコロコロ変わって信じられない。むしろ、コンピューターのほうがよっぽど信頼できるよ」
真面目な顔で語るその様子に織田は少し呆れつつも、妙に納得してしまった。
「とにかく、伝えることは伝えたから、俺はもう部屋に戻るよ」
ドアを開けて出ていこうとする織田に、山崎は小さな声で「…ありがとう」とつぶやく。
織田は振り向く事はしなかったが、背中を見せたまま右手を挙げて手を振った。
部屋に戻ると、机の上に置いてあるパソコンの電源を入れる。学校から支給されたパソコンだが、自由に使えるため、彼は毎晩のように寮の部屋で調べ物をしたり、時には動画を見て楽しんでいた。
早速『AI教師掲示板』と検索してみると、先ほど山崎に見せてもらった掲示板サイトが表示された。ページを開き、書き込み欄に視線を移すと、彼はキーボードを叩き始める。
匿名のコメント:『AIは人間と対立する怖い存在だ。人間の脅威になるかもしれない。身をもって調査するから続報を待て』
軽い気持ちで書き込んだそのコメントが、無事掲示板に表示されていることを確認すると、織田は思わず高揚した。これを読んだ人たちの中にも自分と同じように感じる人がいるかもしれない。そんな思いに胸が熱くなった。
その夜、彼が『AI教師掲示板』に書き込んだのはこれだけだったが、その日を境に、織田は毎日のように掲示板にコメントを投稿するようになっていく。




