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AI教師  作者: AKi
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職員室へ呼び出し


翌日、木曜日。


教室に入ると、花咲薫がぽろぽろと涙を流していた。広瀬が周囲に聞こえるよう大きな声で理由を説明する。


「イチゴ柄の靴下が湿ってたって泣いてるんです」


昨夜、山崎が届けに来たあの靴下のことだった。


するとAI教師の声が冷たく響く。


「山崎くん。昼休みに職員室へ来てください」


「僕が?」


「やっちまったな、職員室呼び出し第一号だな」


京本がくすくす笑いながら茶化す。


「あなたも昼休みに職員室へ来てください、京本くん」


AI教師がすぐさま京本にも声を掛ける。


「俺も?なんでだよ」


広瀬は振り返り、無表情で京本を睨みつけていた。


山崎は困惑したまま席から立ち上がり、AI教師の前まで歩いていく。


「僕が何か悪いことをしましたか?どうして職員室へ呼びつけられるのか、納得のいく説明をお願いします」


腕組みをしたまま詰め寄ると、AI教師は一瞬無言になり、間を置いてからまるで言葉を選んだかのように応じた。


「プライバシーに関することなので、ここではお伝えできません」


「それは誰の指示ですか?ここで話せない内容があるのはプログラムの設定ですか?」


「他の生徒がいる場で、個人に関するセンシティブな内容はお話しできません」


「プログラムでそう設定されているのですか?」


「私のプログラムに関して説明することはありません」


AI教師は冷静に返す。


「それじゃ納得できません!僕には目的があって行動しただけで…ここでちゃんと説明してほしい」


その瞬間、教室の空気が凍りつく。皆が無言で山崎とAI教師を見つめている中、花咲がすすり泣きながら小さな声で呟いた。


「もう、やめてください」


顔を伏せる彼女の隣に広瀬が寄り添い、そっと肩を抱く。


「花咲さん…違うんだ、僕はただセキュリティの安全性を確かめたかっただけで…」


「少し冷静になったら?みんな気味悪がってるよ」


広瀬が冷ややかに山崎へ目を向ける。


「あーあ。俺のことはどうせ、昨日のビンタの件だろうけどな」


京本がぶっきらぼうに言う。


「そうです」


AI教師が淡々と答える。


「え?言ったじゃん。俺のプライバシーは?」


「それは、みんなの前で起こったことだからじゃないかな。ここにいるみんな知ってるし」


田中が軽く口を挟む。


「それでは授業を始めます。皆さん、着席してください」


その後、AI教師の授業は何事もなかったかのように進んだが、山崎は眉間に皺を寄せ、苛立ちを抑えきれない様子で窓の外をじっと見つめていた。


昼休みになり、山崎と京本は職員室へ向かう。ドアの前で立ち止まりノックをして中へ入ると、磯部教頭と上沼保健師が待っていた。広い室内には机が4つ並び、中央奥には重厚な扉が構えている。校長室だろうかと京本はちらりと視線を向けた。


「君たちが今回の問題児か。AI教師から報告を受けているが、一人はふしだらな行為、もう一人は秩序を乱す行為をしたそうだな」


教頭が二人を見据えて口を開く。


「それについては異議があります」


山崎がすかさず反論した。


「君は上沼保健師に任せる。もう一人は私のところへ来なさい」


京本は教頭に促され、彼のデスクの前に立たされる。机上には教科書や書類が整然と並び、湯気の立つコーヒーが置かれている。


「やれやれ、君は少し元気が良すぎるようだ。反省しているのか?」


「そうっすね」


「目上の人への言葉遣いには気を付けなさい」


「はぁ…」と返す京本に、教頭は彼の頬を見て優しく声をかける。


「左の頬が腫れているが、大丈夫か?」


「これくらい平気っす」


教頭は小さくため息をつき、真剣な目で話しかける。


「実は武田教師だけでなく、放課後にAI教師からも授業態度について聞いていてね。君、あまり評判が良くない。自覚はしているか?」


「そうなんですか…はい。反省しています」


教頭はしばらく京本を見つめたあと頷き、「今後は気をつけなさい」と促した。うなだれていた京本だったが、ふと顔を上げて不思議そうに尋ねる。


「あの、あそこの奥の部屋は誰が使っているんですか?」


職員室の奥の扉を指差す。


「ああ、あそこは校長室だよ」


「校長…そういえばまだ一度も会ったことがないんですが、今あの部屋にいるんですか?」


「今は不在だ。前職の整理や報告書のまとめで忙しいそうだよ。そのうち来校するだろう」


教頭はコーヒーを一口飲みながら答える。教頭に「さぁ、もう戻りなさい」と促され、京本は一足先に教室へ戻っていった。


一方、山崎は上沼保健師のデスク前に立っていた。机上には書類が雑然と積まれ、筆記用具や付箋が散らばっている。隣の席には「AI教師」と書かれた名札があり、シンプルなデスクにはパソコンが一台だけ。正面の壁にはAI液晶モニターが取り付けられていた。


「私の席に座ってください」


モニターからAI教師の声が響く。山崎はその正体に気づき、ぼそりとつぶやく。


「職員室にもいるのか…」


職員室に配属されているAI教師は、1年A組・B組・C組を統括する代表として選ばれており、デスクやモニターも整えられていた。


「座りなさい、山崎くん。そしてこれを見て。見覚えがあるでしょう?」


上沼保健師は引き出しから袋を取り出し、中から一足の靴下を置いた。


「この靴下をどこで拾ったのか、納得のいく説明を行ってください」


AI教師が静かに促す。


「僕はホワイトハッカーを目指してこの学校に入学しています。だから、彼女の部屋のセキュリティが安全なのかを確認するためにコードをハッキングして確かめただけなんです」


「どうして彼女の部屋を選んだの?」


「それは…自然寮には女子が三人しかいないからです」


「花咲さんの隣の部屋は広瀬さんだったよね」


上沼保健師が思い出すように言うと、山崎はうなずく。


「はい。ただ、リスクを考えた結果、花咲さんの部屋を選んだんです」


「あなたの言動には矛盾が見受けられます。さらに、表情から察するに花咲薫さんに対する恋愛感情があるようですね」


AI教師が冷静に指摘する。


「ぼ、僕が恋愛感情だなんて…ご、誤解です!」


山崎は慌てて否定し、深呼吸して落ち着いたあと語り始めた。


「実は…幼い頃、自宅のマンションに泥棒が入って怖い思いをしたんです。しっかりしているはずのセキュリティも突破されたし…身を守ることの大切さを痛感しました」


「あら、大変な経験をしていたのね」


「それ以来、セキュリティの大切さに興味を持ったんです」


「過去の事情は理解しました。しかし、靴下を持っていた理由について説明が必要です」


「証拠のためです。中学の頃、企業サイトにハッキングしたと自慢したら嘘つきだと言われて…証拠を残したかったんです」


「そんなことをしちゃダメよ」


「山崎海斗くん。自己成長には反省が必要です。君の行動が他者にどう影響したか、振り返りなさい」


「反省しています…もう二度としません」


「その言葉、花咲さんにも伝えておくわね」


上沼保健師は柔らかく微笑む。


「ありがとうございます」


「深く反省し、他者の感情を尊重することを心に留めてください」


AI教師も助言を与える。


「はい…分かりました」


意気消沈しながらも、帰り際、山崎は職員室の奥の重厚な扉が気になり質問を投げた。


「あの扉の向こうには誰がいるんですか?」


「校長室よ。ただ、まだ来ていないの。前職の整理で忙しいそうなのよ」


「校長室…セキュリティも頑丈そうだ」


「オートロック機能が備わっているので不正侵入は不可能です。ドアが閉まった瞬間から自動でロックされます」


AI教師が即答する。


「あ、あぁ、大丈夫です!心配しないでください、校長室に興味なんてありませんから!」


慌てて弁解する山崎を見て、上沼保健師は優しく微笑んだ。


「早く教室へ戻りなさい」と促され、山崎は肩を落としながら職員室を後にした。


上沼保健師がふっと微笑んで「思春期ですね」とつぶやくと、AI教師も穏やかに応じた。


「この時期の若者は挑戦的です。人は経験を通して成長していくので、暖かく見守る必要があります」


「そのようですね」


隣同士の席ということもあり、上沼保健師はAI教師とよく会話を交わし、いつの間にか静かな信頼関係を育んでいた。

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