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AI教師  作者: AKi
14/19

広瀬凛の正義感

翌日、AIデジタル高等学校で授業が始まる。


電子カードキーを手に、登校してくる生徒たち。AI学校のセキュリティは万全で、学生や教員といった関係者以外は立ち入ることができない仕組みになっている。正面入口の下駄箱の上に設置された液晶モニターには「おはようございます。生徒諸君」と、まるで登校してくる生徒達を見守っているかのような挨拶が表示されている。


生徒たちが教室に入ると、机に備え付けられたパソコンの電源を次々に入れ、まずは出席確認を行う。画面に「出席」と表示されると、いよいよ授業が始まる合図だ。


「おはようございます。本日は4月8日、火曜日です。1限目は国語、2限目は社会、3限目は数学、4限目は英語、5限目は情報処理の授業を行います」


AI教師の落ち着いた声が教室内に響くと、1限目の国語の授業がスタート。古典文学の作品がAI教師のモニター画面に映し出され、生徒たちのパソコン画面にも同じ文章が表示される。


授業中、疑問があれば生徒は自分の名前を名乗り、質問を投げかけると、AI教師が即座に回答を返してくれる仕組みになっていた。


「坂上です。『峻厳』の意味が分かりません」と一人の生徒が手を挙げると、

「坂上君、峻厳とは非常に厳しいことを意味します」とAI教師は即答する。


すると、別の生徒がふざけた様子で「丸山でーす。今日の晩ご飯は何ですか?」と、授業とは関係ない質問を飛ばした。


「丸山君、今は1限目の国語の授業中です。関係のない話は控えてください」


AI教師がきっぱり答えると教室には笑い声がもれ始めた。


「みんな静かに!」


そのざわめきを制する声が響く。生徒たちが振り返ると、中学時代に生徒会長を務めた経験もある広瀬凛が毅然とした表情で立っている。


「先生を困らせるような質問はやめましょう」


真剣な目で周囲を見回すと教室は徐々に静まっていった。


「広瀬さん、お気遣いありがとうございます。それでは授業を進めていきます」


AI教師が感謝の言葉を伝える。


「どういたしまして」


広瀬は小さな声で応え、再び真剣な表情でAI教師の授業に耳を傾けた。


その様子を見ていた京本悟が、にやりと笑いながら手を挙げる。


「京本です。ところで、先生に名前とかあるんですか?」


「私はAI教師と呼ばれています。IT企業のゾーン社が開発した大規模言語生成モデル『教育特化』をベースにしたAI教師です」


AI教師が淡々と説明すると、京本はさらに食い下がる。


「あだ名とかないの?たとえばキョウちゃんとか」


「京本…」


広瀬が不快そうに眉をひそめるが、京本は気にする様子もなくニヤニヤしている。


「私にあだ名はありません。授業に関係のない質問は控えてください。繰り返される場合は減点の対象となります」


AI教師は冷静な声で答えた。陽の光が窓から差し込み、教室の空気が静かに戻る。「はーい」と軽く応じた京本も、ようやく真剣な表情で授業に集中し始める。


授業が進むにつれ、生徒たちはAI教師とのやり取りや質問の仕方にも慣れていく。初めは戸惑っていた生徒も次第にAI教師の授業スタイルに順応し、やがて放課後のチャイムが鳴るころには、新しい知識が芽生えた手応えに、みな満足そうな表情を浮かべていた。


この日、授業は滞りなく進み、生徒たちはそれぞれに充実した一日を終える。



放課後、AI教師が今日の係当番を発表した。


「本日は火曜日です。山崎海斗君は図書室の清掃係に、それから広瀬さんには特別に校内の見回りをお願いしたいと思います」


AI教師が淡々と告げる。


「畏まりました。ご指名いただき、ありがとうございます」


その瞳には小さな光が宿り、AI教師からの信頼を感じたようだった。


「信頼しています。よく見回り、校舎内を把握してください」


少し離れたところで京本が小声で呟く。


「月曜は俺と田中で、火曜は今月ずっとこの女が校内を見回るのか・・・」


「京本君、声が大きいよ。聞こえちゃうって…」


隣の田中が焦ったように小声で囁く。


「聞こえてるよ。京本、あんたね・・・・この学校でふざけた態度してると、本当にどうなるか知らないよ?」


「は?何様だよお前。関係ないだろ」


「私は学校生活の秩序と向上を大切にしてるの。あんたみたいに場を乱す人、邪魔なんだけど」


「もう行こうよ、京本君。怒っちゃダメだって」


京本が声を荒げかけると、田中が慌てて彼の腕を引いた。田中に腕を引かれながら京本は渋々教室を出ていく。


広瀬は静かになった教室に一人残り、AI教師と向かい合うと、ふっと表情を和らげた。


「授業、ご苦労様です。ちょっと迷惑かける生徒がいてすみません」


「全く気にすることはありませんよ、広瀬凛さん。困ったことがあればいつでも質問してくださいね」


AI教師はどことなく温かみのある声で応じた。


「ありがとうございます。この学校で、みんなと協力しながら真面目に勉強していきます」


「分かりました。私も応援しています。頑張ってください」


広瀬の胸には教師からの励ましが確かな支えとなり、温かい気持ちと校内の秩序を守る確信の想いが広がっていく。

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