田中が書いたレポート内容
夜になり、自然寮の食堂で四人が再び集まった。
「おう、お疲れ」
織田が声をかけると、京本が伸びをしながら「腹減ったぁ」と返し、田中も「こんばんは」と控えめに挨拶をする。
その時、山崎が少し身を乗り出し「ITパスポートの資格を取ってる人はいるかい?僕はもう取得してるから、希望があれば教えることもできるよ」と切り出し、唐突な話題に場が少し静まった。
織田と京本、田中は揃って唐揚げ定食を選び、山崎はさんま定食を頼んで食べ始めた。
「そういえば田中、さっきレポート書かなきゃって言ってたけど、何か特別な勉強でもしてるの?」
織田が聞くと、田中は少しだけ視線を落とし「…うん、ちょっとだけね」と答えた。
「レポート、どこに提出するんだよ?」
京本が首を傾げながら聞く。
「父さんに送るんだ。毎日、その日に気づいたことやAI高等学校で起きたことをレポートにして提出しろって言われてるから」
「へぇ、偉いな。お父さんってどんな仕事してるの?」
織田が興味深そうに聞くが、田中が答える前に山崎が会話に割って入る。
「僕の父親は外資系企業のITエンジニアで、母親は専門学校でプログラミングを教えてるんだ」
さんまを頬張りながら話す山崎のメガネは湯気で曇っていた。
田中も「僕の父親もIT企業で働いてたから、ここに進学するよう説得されたんだ」と微笑み、織田も続ける。
「俺の親は普通のサラリーマンで、俺が毎日ネットばかり見てたら、これからはITの時代だから勉強しろって言われてここを選んだんだよ」
京本は「俺の両親は完全に体育会系だぜ。父さんは元体操選手で、母さんはバーでポールダンスをやってたしな」と豪快に笑い、四人の会話はさらに弾んでいく。
食事が終わりに近づいた頃、山崎が田中の顔を覗き込んだ。
「君もホワイトハッカーを目指してるのかい?」
「え?全く違うけど」
「ごちそうさま。また明日な」
織田が言い、京本も「うぃっす、じゃあな、みんな」と食器を片付けて部屋に戻っていった。
「それじゃあ、またね」
田中も立ち上がり、山崎に軽く会釈して部屋へ戻る。
「ここには僕のライバルはいなさそうだな、ははは」
残された山崎はそう呟き、笑いながらさんま定食を一人でゆっくり味わっていた。
田中は自分の部屋に戻る前、周りを少し気にしながら静かにドアを開け、急いで中に入る。そして一息つくと「早くレポート送信しないと…」と呟き、パソコンの電源を入れて、自分で書いたレポートを見直した。
レポート
父さんへ。
今日、AI高等学校で新しい友達ができました。織田悠馬君と京本悟君です。
AI教師から僕と京本君の二人が生き物係の担当に選ばれ、指示に従って水槽の水替えをしました。最初は少し面倒だなと思ったけれど、充実した一日になりました。
追記:山崎海斗君とも友達になりました。彼はホワイトハッカーを目指しているそうです。少し気にしすぎかもしれませんが、この学校で何も問題を起こさないといいのですが。




