寮での雑談
京本悟の部屋に入ると、織田はどっしりあぐらをかき、隣で山崎が正座し静かにカーペットへ座った。部屋にはサングラスやアクセサリー、小さな棚には漫画やスポーツ雑誌がぎっしり並び、物であふれている。
「足崩していいよ。楽にしなよ」
「僕はこの方が落ち着くから。それよりさっきの居残り当番について聞きたいんだ」
「あ?水槽の水を替えて花壇に水をやっただけだよ」
「花壇に?誰かの指示で?」
「誰って…AI教師だけど」
「やっぱり教室外のことも学習しているのか!」
山崎は目を輝かせ、声を上げながらガッツポーズを決めた。
「教室外を学習?どういうことだ?」
織田が不思議そうに首を傾げる。
「実は昨夜、この寮の全部屋のドアをハッキングしてみたんだ」
その言葉に織田の表情が一瞬で硬くなり、低い声で「お前ぇ…」と唸った。京本が「まあ落ち着けって。こいつの話を最後まで聞こうぜ」となだめる。
「ハッキングの30分後にはプログラムが正常に戻っていた。夜中にあの速さで異変に気づいて修正なんてできるはずがない。だからおそらくAIが自動修復したんだろうと推測してる」
「お前がやってることこそ無駄な事だろ」
「何言ってるんだ。自分が住む場所のセキュリティくらい確認するのは大事な事さ」
そんなやりとりが続いたあと、織田が立ち上がり部屋を出ようとすると、京本が「おい、もう帰るのか?」と声をかけた。
「ああ、少し勉強したいし。また後でな」
それだけ言い残し、織田はドアを閉めて去った。
残された京本は山崎に向き「何か匂わないか?」と遠慮なく尋ねる。
「匂い?どうしてそんなこと…もしや君は匂いフェチなのかい?」
「いやいや、学校で走ったから大量に汗かいたんだよ。臭わないなら別にいいよ」
「…特に気にならないかなぁ…」
「それよりさっきのAI教師の話だけど、教室外の学習ってどういう意味だ?」
「おっ興味持ちだした?つまりだね、AI教師は水替えで余った水の量を予測して花壇への水やりも指示したってことなんだよ」
「それなら最初からそう言えばいいのに」
「君を試したんだろうね」
「俺を試した?」
「君がどれくらい水を汲むかや、作業後にAI教師へ話しかけるかどうかも含めて観察してるんじゃないかな」
京本は「そんな訳ないだろ」と笑いながらも、新しい技術に触れたワクワクを隠しきれなかった。だが京本以上に目を輝かせる人物が目の前にいた。
「AIの進歩は本当に素晴らしい。もっとAI教師の内なる思考まで知りたいなぁ」
興奮気味に語る山崎。その姿に京本は再び笑みを浮かべた。




