女子社員は片付けの相違を知る。
しいな ここみさま主催『華麗なる短編料理企画』参加作品です。
今日の俺、いつもの社員ダイニングにて、弁当を食す。もちろんカミさんお手製のとても美味しい、いわゆる愛妻弁当。午後の活力はこれでつける。
夏になり、汗ばむなんて言葉で済まないほど、暑さが酷い昨今。
少し濃い目の味付けにしてくれたりと、カミさんの気遣いをありがたく噛み締める。
「ありがたみ、ゼローーー!!」
ふと耳に入る女子社員の声。この声は宮原だ。
俺はありがたみ無限大だぞ。
「ほんっっと、ゼロってかマイナスだわ」
そして、宮原の同僚である伊藤の声も。しかし、ご立腹ボイスは久しぶりだ。そして、マイナスのようです。
「旦那のやつ、何で洗いかごにある食器を片付ける時、絶対に元の場所に戻さないの、あれなんなの、病気?!」
宮原、君は人事部に旦那が……って、今更か。
「元の場所に片付けたら死ぬの? そんなレベルで、片付けしてくれないのよね。あれバカなのかしら、ホントに。それで、片付けといた、ドヤァ。ってしてるのよね。でも違う場所」
「それなら、やらない方がマシなんだよね、いつも取り出してる場所からすぐ取り出せないの、ホントにストレス!!」
え、そんなこと起きるの?! 伊藤家と宮原家……なんで??
「幼稚園児だって、完璧に出来なくても、元の場所に戻すくらいやるわよね」
伊藤、声が低いです。こわいです。
「ホントにそれ! なんでオトナってか、オッサンがそんな事も出来てないのか、不思議でたまらないよ!」
宮原、ここにいるオッサンはそんな事してませんよ。
「自分はソコから取り出すくせに、ソコにしまわないって、頭おかしい! 言っても直らないし、むかつくー!」
宮原の言葉はキツイけど、概ね同意だ。
何で片付けで、そんなことが起きるんだろうな……。
うまく話し合ってくれ、ご家庭で。
むしろ、彼女たちの旦那である人事部の宮原と取引先の伊藤さん、ちゃんと片付けしてください。
ご家庭の不和は、彼女たちの仕事モチベに影響します、頼みます。
――数日後。
今日の私、同僚の宮ちゃんは、営業部の仕事で出張に出ていて、一緒にランチが出来ないので、社員ダイニングではなく、外へ食べに出た。
外を5分弱歩くだけで、汗が滲む……。ご飯食べて会社に戻ったら、メイク直さなきゃ……。
今日はレディースデイで、カレーが2種類つくのよね。ナンも食べ放題だし、ガッツリ食べよう!
「ほんと、うちの嫁うるせーんだわ。細かいことグチグチとさぁ!」
後ろの席から聞こえる男性の声。まぁ、ご家庭の不満はどこでも出るわよね。
「食器をしまってやったのに、場所が違うとかさぁ!」
はぁあぁ?! 違う場所にしまうのは『片付け』じゃなくて、洗いかごにある食器を、棚に『隠した』だけなのよ、バカなのこいつ!!
運ばれてきたサラダに、フォーク突き立てたいくらいの怒りが、一瞬で湧くわ。
「わかる、わかる。ちゃんと片付けたじゃんか! って言っても、場所が違うとか! そうじゃねぇって、片付けをした俺の行動を褒めろって話だよな」
は? 『片付け』してないくせに、褒めろですって?
テストの点数0点でも、答案用紙に書いたから誉めてって寝言言ってるのと、同じレベルよ、それ。
「それなー」
なー、じゃねぇわよ! それNOよ!!
片付けてないのに、何同調してんの、こいつ。
……ん? この声、宮ちゃんの旦那じゃない?!
もうひとりはわかんないけど。
きたきた、辛さ5のバターチキンカレーとキーマカレー! この辛さ、家だとなかなか作れないのよね。
こういう時に堪能しなきゃ! ハニーチーズナンにかえたし、完璧!
どうせ戻ったらメイク直すし、ガッツリ汗かく覚悟よ!
「せっかくわざわざ片付けたんだから、その行動をした俺を誉めないから、やる気なくすんだよ」
人事部の宮原ーーーっ!!!
こいつ間違いなく頭悪いっ、うちの旦那と変わらないレベルでおバカだわ!! って、こいつら魂の双子だったわね。
てゆーか、それ褒める要素ゼロよ!!
それで誉めてもらえると思ってるとか、バカすぎるわよ。
人事部で言えば、入社試験のテストの採点を間違えていたけど、丸つけしたから大丈夫って言ってるようなモンよ……。
「なんで、片付けようって思った心意気を、誉めてくれないんだろうな、嫁ってさー」
ダメ男A、それお母さんに褒めてもらいたい小学生男子みたいなもんよ……あんたはオトナなの。
経過より結果を見られるのよ。
「ほんと、ほんと。家事なんて、俺のタイミングでやりたいのにさ」
ジンミヤ……ッ! お前のタイミングっていつ来るのよ、自主的に家事しないくせにっ!! 永遠に来ないでしょ!
うちの旦那と一緒だから、想像し易いわ……。
それにしても、このバカな思考になる理由がわかんないわ……。
ナンおかわりしよ。
「だいたい、嫁のこだわりがすげーのよな、俺の意見どこー? みたいな」
「そうそう。手伝おうって思っても、すでに嫁側が確立しちゃってて、手出しして怒られてさ、余計萎えるよなー」
おい、ダメ男Aとジンミヤ……。
ダメ男Aの事情は知らないけど、ジンミヤは、ほぼ家事をやらずに、家でダラダラしてたクチでしょーが! 宮ちゃんに全部押し付けて!
あんたがなーんにも動かず、今までサボってサボってサボりまくって、出た結果なのに、なに平然としてるの? ってか萎えるって言える立場か、コイツ。
腹立つわね……。
「だいたい、嫁なんていつでも気楽に仕事辞めれるポジションだろ、俺が働いてるから」
ダメ男Aをぶっ飛ばしたい。ものすごく、ぶっ飛ばしたい。
「ホントだよなー、ずりぃよなぁ」
ジンミヤっ……! なに同意してんのよ!!
宮ちゃんの方が営業部エースで、歩合もあるし、稼いでいるのに!
そこは、嫁さんの方が稼いでるって、素直に言えないわけ?!
カレーの辛さが気にならないくらい、怒りに震えているわ……! あ、ナンきた。
とりあえず、宮ちゃんにLINNEメッセージいれとこ。
これで、ジンミヤが輪廻の輪に還っても、仕方ないわよね。
うん、ここのナン、プレーンのやつすごいモチモチしててやっぱり好き!
焼きたてのバター香る熱々ナンは、バターチキンカレーと相性ばっちり。好き。
あー、お腹いっぱいになったわ……。辛いカレーが発汗作用を促してくれて燃焼してるから、きっとプラマイゼロよ! むしろマイナスだわ!
大丈夫よ、明日の私。体重計を怖がらないでね……。
――ブブブブブ
あ、宮ちゃんからメッセ返ってきた。
――――――――
宮ちゃん
{オッケー! あいつ許さん]
――――――――
――数日後。
今日の俺、社員ダイニングでの、いつも通りなランチタイムを過ごすつもりだが、夏バテ真っ盛り。
連日の外回りで、熱中症に気を付けながらこなしたものの、やはり奪われる体力が、この季節は段違いだ……。あー、歳はとりたくねぇ……。
家の飯もあんまり食べれてないが、カミさんの弁当は何としても食わねば。
お、保冷バッグに保冷剤たくさん?
タッパーには素麺が! しかも食べやすいようにひとくちサイズで巻き巻きされてる!
これ、娘の弁当でやったことあるけど、手間がすごいんだよな……ありがてぇ。
小さな水筒は、めんつゆか。コップ付き水筒だから、これに麺つゆ入れて浸せばいいんだな!
食べやすいお弁当……助かる。
「あー、スッキリした!」
この声は宮原。
前のご立腹とは打って変わって、晴れやかだ。
もしかして、片付けない問題解消されたのかな。
「ね、ね、何したの?」
伊藤、声が弾んでるぞ……。
「旦那の洗濯物、バラバラに片付けた!」
「へ?」
へ?
宮原さん、詳細ぷりーず。
「靴下とかも全部左右バラバラ、シャツしまうところにズボンや靴下入れたりして、何もかもバラバラにしたのー」
ど、どういうこと??
「え、そんなので効果でる?」
「まず、文句言ってきたのね」
「そうよね、想像つくわ」
まぁ、そりゃ、変なとこに入っていたら……ビックリはするよな。
「そんで、「乾いた洗濯物を片付けようと思った、あたしの心意気を褒めなさいよ」って言ってやったの!」
「ブッ……! それ、ジンミヤたちが言ってたセリフっ……!」
え、宮原旦那、そんなこと言ったの? バカなのか、あいつ。
「そしたら、思い当たる事あるから、バツの悪そうな顔して、黙りこくっちゃった! あはははは!」
「チクったの私だしね」
「教えてくれて、ホント助かったー! あるべき場所にないイライラわかってもらえたよ!」
むしろなんで、テキトーにしまっていい、って思っていたんだよ……。
宮原旦那だけじゃなく、取引先の伊藤さんもそうだけど、なんでご家庭だとポンコツ思考になるんだ……。
なんにせよ、宮原家の問題解決が完了したようだ。
「私もやってみようかな。私は「自分のタイミングでやる」って言ってみようかしら! ご飯とか」
「あはは、いいね! いつも言ってるよね。一生お前のタイミング、なんて来ないのにねー」
いとうさーーーん!!! 共同生活に自分のタイミング持ち出しちゃダメでしょー!
家事は生活について回るモンなんだからー! 仕事でそれやらないでしょー!
ま、なんにせよ……夏バテに素麺はありがたい。




