6話
電車に揺られ、今度は姫輝の家へと向かう。
「……ねえ、梨琴さん。私は着替えてから、私の家に行っても良かったのではないでしょうか……」
「……そうだね」
お互いの服装を見つめあう。二人とも制服である。急いでいたので、そのまま来てしまった。
「って、姫輝はどうやって電車に乗ったの!?」
バタバタしていたので、着替えをしていなければ、当然、荷物も準備していなかったはずだ。そこへ姫輝はドヤ顔でポケットから財布を取り出してあたしに見せつけた。
「いつの間に!?」
「私物の確認をしていた時に、必要と思って拝借しましたわ」
なんてこった……せめて定期券なら苦痛は軽かったのだが、定期券だと姫輝の家に行けないのかもしれない。あたしは財布の中身が軽くなっていくことに、不安を感じた。
(あたしの財布……お嬢様感覚の姫輝に使わせて大丈夫か?)
そんなことを思っていたら、電車は止まった。
「この駅ですわ。さあ、降りましょう」
手を引かれて電車から降りる。時間的な問題なのか、土地柄的な問題なのか、降りる人は少ない。
「紅姫駅!?」
「そうですが、それがどうかしましたか?」
あたしは場違いな場所に狼狽える。
「いや、紅姫駅ってセレブじゃん!」
「そんなことないですわよ? 豪邸とかもあるみたいですが、それも僅かですし」
いや、僅かでもあるんじゃないか……。お嬢様に金銭感覚に対するツッコミを入れても仕方がないと、溜息を吐く。
「さあ、私の家に案内しますわ!」
あたしは姫輝に手を引っ張られてついて行く。
そして、辿り着いた建物を見上げる。
「……」
「まあ、小さな家で恥ずかしいのですが」
あたしが呆然としていたら、そんなことを言われた。
ちなみに姫輝の家は、ドラマとかに出てくる豪邸ではなく、一戸建てである。
家の大きさがうちの倍以上あるけどね? 倍以上あるけどね?
大事なことなので、心の中で二度呟いた。
そんなあたしに姫輝が、手で中に入るようにと促す。そりゃそうだ。あたしが今は姫輝なんだから、あたしが率先して入らないと、姫輝も当然入るわけにはいかない。
あたしがテンパりつつ鞄の中を探すと、やれやれと言った感じで、姫輝がカードキーを取り出した。
それを受け取り、あたしはカードキーを玄関の鍵の部分にスライドさせる。
すると、カチリとドアの施錠が解除された音がした。
緊張しつつドアを開ける。
(お邪魔します……)
恐る恐るとドアを開ける。姫輝からは肘でお腹を突っつかれる。まあ言わんとすることはわかるよ? もっと堂々としろってことでしょ?
でも、他人の家に自分が率先して入るなんて、普通は緊張して当たり前だと思うんだが……。
そういう意味では、やはり姫輝はクソ度胸の持ち主である。
そんなあたしに姫輝が耳元で囁く。
「この時間は誰もいないから平気よ」
あたしはほっとして、姫輝の家の中に入った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
公募に向けて研究をしているのですが、「この作品は失敗であろうか……」と不安を感じております。
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