5話
どっと疲れた。少し休憩をしてから、室内にあるものを説明する。物の場所が分からないと困ることになるであろう。
そして、洋服の説明をする。
「下着はここだから」
そう一言だけ伝えて、引き出しを一瞬だけバンバンと開け閉めをして見せた。
流石に同性とはいえ、下着を見られるのは恥ずかしい。まあ、今後は見られることになるんだが……。
鞄から財布など小物を取り出し、しまう場所も説明をする。じゃないと、突然元に戻った時に、困ることになる。
まあ、財布とか貴重品の説明をするのは、かなり抵抗があるがやむを得ない。せめてもの悪あがきで、貯金箱の場所は教えない。
そこでヤバいブツに気づいた。
フォトフレームに、悠橙先輩の写真が飾られている。
(……これどうしよう? 持っていくべきか? ひとまず伏せておいて考えるか)
姫輝が学習机を漁っているうちに、あたしはスススと気配を消しつつ、小物用タンスの所に行く。そして、後ろ手でぱたりとフォトフレームを伏せた。
(ふぅ~、ひとまず成功)
一仕事した達成感に、額の汗を拭う。
汗を掻いたので、部屋着に着替えようと思い、制服を脱ごうとしたら、姫輝が止めに入った。
「梨琴さん! な、なにしているんですか?」
「何って、汗を掻いたから着替えを……あ」
姫輝の言わんとしていることに気づいた。馬鹿かあたしは! 今のあたしが姫輝でしょうが! ここで着替えてどうする!
赤面しつつ、下ろしかけていたスカートのチャックを戻す。あたしは自分のミスを誤魔化すように捲し立てる。
「じゃ、じゃあそろそろ姫輝の家にも行こうか! 時間がなくなって説明不足だと困るし!」
あたしは姫輝の鞄。つまり今のあたしが持つべき鞄を手に取り、ぐいぐいと姫輝の背中を押して部屋を出た。
玄関で靴を履き、「お邪魔しました~!」とリビングにいると思われるお母さんに声をかけた。今度はゆとりがあったので、間違えなかった。
すると、お母さんがお見送りに出てきた。
「あら? 雉子島さん、もうお帰り? もっとゆっくりしていけばいいのに」
(こっちはゆっくりしている余裕はないんだよ!)
内心でそう思いつつ、作り笑顔をする。
「いえ、今日は用事がありますので、また今度お邪魔します」
その言葉だけ残して、ドアを開けて家の外に出た。
「また今度お邪魔します」の言葉は嘘でも社交辞令でもない。たまには監視に来ないと、姫輝が何かをやらかすかもしれないからだ。そういう意味では、姫輝にもたまには、あたしの様子を見に来てもらいたいものだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
ラブコメを書くのは、恐らく初めての作者(記憶にないだけかもしれませんが)。
現時点で『コメディ』は出ているけど、『ラブ』の部分が出てきておりません。
ちょっと梨琴の想い人の登場が遅いか? と内心不安になっております。
そんな作者を応援して頂けると嬉しいです。
欲を言えば、感想も一言『面白い』だけでもいいので、頂けたらと……。
反応を頂けると、今後の作品の参考になりますので。