3話
情報交換を終えると、ファミレスを出た。まだお互いの家の場所を知らないので、両方の家に行かなければいけない。
「どちらの家から先に行きます?」
姫輝にそう言われて悩む。姫輝の家を見た後に、あたしの家を見せる自信はない。きっと豪邸と犬小屋の違いがあるかもしれない。
それならば、先に犬小屋を見せてしまった方が、あたしの羞恥心を多少は抑えられるかもしれない。
「……じゃあ、犬小屋……じゃなくて、あたしの家から行こうか」
「犬小屋?」
言い間違えをしっかりと聞くな!
内心でそんなツッコミを入れつつ、電車に乗り、あたしの家へと向かう。
そこでふと気づく。社員が二十万人いたら、「お嬢様、お迎えに参りました」って執事セバスチャンとかが、高級車で来たりしていないな? 電車慣れしていそうだし、豪邸ではなく少し大きな程度の家かな?
そう思えるようになってきたら、少し安堵した。
只今、あたしの家に辿り着きました。
お父さんは会社。お母さんもパートに行っている時間。つまり姫輝の身体に入っているあたしが侵入するチャンス。いや……侵入って言うのもなんだが、今の状況で適切な言葉が浮かばなかった。
あたしは姫輝に鞄の中に入れてある鍵の場所を教える。
なんかな……他人に家の鍵の場所を教えるのって、半端なく嫌だ。これが入れ替わりでなければ、この状況を理解している人も、この嫌な感じを分かってもらえるだろうか。
姫輝は鞄の内ポケットから鍵を取り出して一言。
「あら? 家の鍵ってこういうものですの? カード式じゃなくて?」
「……」
なんかもうね……家の格の違いを鍵の存在だけで悟った気がするよ……。
敗北感を感じながら、家の中に入るように姫輝に促す。あたしが率先して入るとおかしいからである。
流石の姫輝も、初めての家に緊張しているようだ。
「……お、お邪魔します」
おずおずとドアを開けて玄関の中に入るあたしたち。ドアを閉めてほっとする我が家。
住み慣れた家で、気が緩んだあたしは、姫輝に下に見られていた感じがあるので、ここぞとばかりにケタケタと笑いつつ、姫輝の言葉を訂正する。
「そこは、『お邪魔します』じゃなくて、『ただいま』だから」
カースト上位の姫輝のこのビビりように、草生えそうだ。
そんなとき、玄関に人影が向かってきた。
「あら? 梨琴、おかえりなさい。お友達?」
予想外のことが起きていた。なんでお母さんがいるの? パートはどうした?
「た、ただいま」
あたしもテンパって姫輝と逆のことをやらかした。
「え? え、ええ、おかえりなさい?」
お母さんが疑問形になって返事をしてくれた。まあ、見た目他人が「ただいま」とか言ったら、そりゃあ、何事かときょとんとするよね。
でも、優しい母である。そんな些細なことは気にしない。
「二人とも、洗面所でうがい手洗いをして部屋に行ってなさい。飲み物とお菓子を用意するわね」
連れてきたことない友達を連れてきた娘。そんな光景が微笑ましく見えたのかもしれない。お母さんはルンルン気分に鼻歌を歌いつつ、キッチンへと向かった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
作者の家も姫輝の家と比べたら、犬小屋かもしれません。
まだ、姫輝の家が登場しておりませんが、その辺は果たして?
仕事に行っているはずの家族が、予想外に早く帰宅している。
そんなことって結構ありますよね。
作者の家族もそんな感じで困ります。
何が困るって、家族全員が、作者が自宅にいる前提で、家の鍵を持ち歩かないということです。
たまに外出した時に、たまたま家族が帰ってきて、逆ギレされる作者です。
鍵を持って行ってと耳にタコができるくらい言っているのですが……(泣)。
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