2話
「では、本題に入りましょうか」
注文をしているときの姫輝は、テンション高めだったが、今は落ち着きを取り戻し、真剣な眼差しをあたしに向ける。その気迫に思わずごくりと喉を鳴らした。
「は、はい。そうですね」
気迫に飲み込まれたあたしは、ちょっと怯む。同学年だから、タメグチでいいじゃん? って思っていたが、丁寧語になった。
あたしも姫輝が作り出す場の空気で、真剣な目で見つめ返す。
姫輝は組んだ手の上に顎を置き、説明を始める。
「梨琴さんの家族構成は?」
「父と母とあたしの三人暮らしです。姫輝さんは?」
「両親と兄がいます」
うん、お兄さんがいることは知ってた。そこはリサーチ済みの案件である。
そこで、自分の考えの浅はかさに気づいた。
(ちょ、ちょっと待てよ? 姫輝さんとして生活するってことは、悠橙先輩と一つ同じ屋根の下で暮らすってことじゃない? もし、悠橙先輩に言い寄られたらどうしよう。きゃ~)
頬を赤らめ、身体を恥ずかしそうにくねくねしていると、何やら姫輝が、鞄をごそごそと漁り始めた。そして、取り出したのは鏡。
その鏡をあたしの目の前に見せつける。
今のあたし。つまりそこには姫輝の顔が当然映し出されている。
(……あ……妹に欲情する兄とかないわ……。あたしの期待した展開があるわけがない)
冷静を取り戻し、違う意味で恥ずかしくなった。それにしても姫輝はあたしの心でも読めるのか? まるで、あたしの内心を察したかのように鏡を出してきたぞ?
「……私の身体で、兄に欲情しないで下さいね」
「べ、別に、よ、欲情なんてしないし!」
思わず立ち上がり大声を出す。すぐに自分の行いに気づき、恥ずかしい発言を聞かれたのではないかと、辺りを見渡す。どうやら誰も気にしていないようだ。まあ他の席でも奇声をあげてる学生とかもいるしね。
あたしは再びソファーに腰を下ろす。
姫輝は再び計画の話を始める。
「それでご両親のお名前は?」
「父が和樹で、母がつぐみです」
「姫輝のご両親は?」
そこで、にこりと姫輝は笑顔を作る。あたしから見ると隠し事があるせいか、にやりとした悪だくみをするような笑顔に見えてしまう。
「あら? 兄の名前は聞かないのですか?」
「……有名ですから」
臆して濁した。姫輝と違い、悠橙先輩は別に有名ではない。単に好きな相手だからリサーチ済みなだけである。まあもう察してるみたいだが……。
姫輝は表情を戻し、両親の名前をあたしに教える。
「お父様は秀一。お母様は雅子」
言い方がお嬢様である。あたしは念のために確認をする。
「ご両親はどんな仕事をしているの?」
「お父様は会社の社長で、お母様は同じ会社の専務をしていますわ」
「……ちなみに会社の規模は?」
姫輝はアイスロイヤルミルクティーを一口飲む。お嬢様とロイヤルミルクティーだと、こんな庶民的なファミレスでも豪華に見えてくる。
コップを置いてから、サラっと一言。
「社員の人数は二十万人くらいかしら?」
あたしも一緒になって飲んでいたコーラを、吹き出しそうになった。
「ちょっと待った! まさかその二十万人の中で、あたしが名前を覚えないといけない人とかいるの!?」
姫輝はその答えを、淡々と説明する。
「いえ、私は会社にまだ関わってはいないので、その辺は大丈夫と思いますわよ」
そう言うと、姫輝は再びストローでロイヤルミルクティーを飲んだ。
2話の最後まで読んで頂きありがとうございます。
前にお話しした通り、公募に出す予定の作品なのですが、『背景描写』が作者が苦手なのか、テンポよく進んでしまいます。
まあ、このテンポがいいという方もいらっしゃるかと思いますが、書籍化作家さんたちの作品を読んでいる方たちには、物足りないかもしれません。
もう少し、テンポは崩さずに、背景描写を入れられるように努力したいと思います。
まあ、独学なので手探りになりますが。
作者のモチベーションアップの為に、感想や応援を頂けると嬉しいです。
この作品以外も読んで頂けたらと、思います。
今後も『入れ替わり激やば!』をお楽しみいただけるように、頑張ります。