17話
あたしは部屋で着替えて、悠橙先輩の待つ、リビングへと向かう。
そして、ソファーに腰を掛けた。
「はい」
そういうと悠橙先輩は、あたしにも紅茶を入れてくれた。
もうね、この紅茶を飲まずに大事に取っておきたいよ。だが、当然飲まなければ味も落ちるし、いずれ飲めなくなるという勿体なさ。せっかく悠橙先輩が入れてくれたのだから、飲むべきだろう。惜しまなくても、今後、このようなこともあるだろうし。
(うへへへへ)
あたしは表情には出さずに、内心で発狂しつつ、紅茶を口にする。
悠橙先輩の紅茶の香りと味を堪能し終えて、ほっと一息ついていると、悠橙先輩が声をかけてきた。
「じゃあ、そろそろ姫輝の部屋に行こうか」
そう言われて、顔が真っ赤になる。あたしの部屋で何をする気? テンパっていると、やがて目的を思い出し、スンとした澄まし顔になる。
(そうだった……勉強するんでした。それに妹相手に何もイベントなんか起きるわけないじゃん……)
だが、妄想をしてみる。身体は姫輝とはいえ、心はあたし。もし、悠橙先輩が迫ってきたら? あたし、受け入れちゃうかもしれない?
くねくねと身悶えていると、声を掛けられる。
「姫輝……?」
言われて瞬時に、我に返る。
「う、うん、に~に。勉強教えて」
「ああ、じゃあ部屋に行こうか」
食器をキッチンに片付けた後、二人であたしの部屋へと向かう。悠橙先輩は紳士的なのか、階段の下からついてくる。いや、あたしの部屋に行くんだから、あたしが先頭が当たり前か?
首を傾げつつ、室内に入る。
あたしが座ると、に~に、いや、悠橙先輩が隣に座った。
(き、距離が近い!)
あたしの内心に気づかず、悠橙先輩は、教科書やノートを出すように指示してくる。
(くそっ! これが梨琴としての距離だったら……)
悔しがりつつも、勉強道具を取り出して、勉強を始める。
勉強を始めたものの、いきなり難しい問題で引っかかった。恥ずかしい。
あたしがしゅんとしていると、耳元に悠橙先輩の吐息がかかる。
「ここの計算式にはこの値を代入して……」
そんな色気のないことを囁かれているのに、身体が興奮でぞわぞわとする。
「姫輝? 顔が赤いけど、大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
一瞬、惚けてしまった。
せっかく、悠橙先輩が勉強を教えてくれているのだ。集中しなければ。
あたしは自分の頬をぺちぺちと叩き、気合を入れた。
「続きの説明をお願い!」
「あ、ああ」
悠橙先輩は、不思議そうな表情をしつつではあるが、根気よくあたしに勉強を教えてくれた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
念願の悠橙先輩との近距離……ではありますが、勉強という梨琴としては複雑な心境。
恋を忘れた作者がラブコメを書いている。恋ってこんなだっけ?と首を傾げつつ(笑)。
応援や感想を頂けると嬉しいです。




