13話
長く感じる一日の授業が終わり、放課後になった。
授業中、問題を解けと当てられないかとはらはらしていたが、無事に気配を消して過ごした。
それにしても……授業についていけなかったのだが?
このクラス、あたしのクラスよりも授業が進んでいるぞ?
今後のことを考えるだけで、胃がキリキリしそうだ。家に帰ったら胃薬でも飲むか。
そんなことを考えていると、LINEの通知音がなった。
『姫輝さん! 帰り、ご一緒して下さいますわよね?』
あ、これ、お説教の流れだ。
あたしは溜息を吐きつつ教室を出て、足重げに姫輝の待ち構えている教室へと向かった。
一年五組の教室の、後ろのドアから姫輝に小声で声をかける。
「姫輝……いや、藪垣さん、一緒に帰ろう」
その声に反応して、姫輝は席を立ちあがり、机の横の鞄を手にする。
教室から出てくると、眉間にしわを寄せている。
(そんな怖い顔をしていると、折角の可愛さが台無しだぞ)
そうお茶目なジョークで場の空気を変えたかったが、今のあたしがそれを言うと、更に姫輝の怒りが増しそうなので、やめておく。
ちなみに、あたしもたまにかわいいと言われるので、もしそんなジョークを言うようなことが今後あったとしても、許してほしい。
姫輝と二人、並んで下校する。
「梨琴さん……いきなりミスをしないで下さいませ……」
呆れ顔で言われた。あたしも昨日の出来事の件で、反論をしておく。
「姫輝だって、『お父様』とか『お母様』とか言っていたけど、悠橙先輩に対して、『お兄様』って言うのかと思ったら、『に~に』だったじゃん! この裏表激しい甘えん坊が! ちゃんとそういう所は伝えておいて欲しかったんですけど?」
言われて顔を真っ赤にする姫輝。
「わ、私はちゃんと、梨琴さんのご両親の呼び方のことは聞きましたよ? 梨琴さんが私に聞かなかっただけじゃないですか!」
恥ずかしそうに、言い訳をする姫輝。こともあろうに、あたしのせいにしたよ……。
「いや、まさか高校生にもなって、『に~に』って呼ぶなんて、誰が予想できるか!」
姫輝は恥ずかしくなったのか俯いた。言い過ぎたか? だが、まだ起きていないが問題点がある。これを機に、聞いておくべきだろう。
「ねえ……『お兄様』と思っていた人が『に~に』だと、『お父様』と『お母様』と思っていた人が別の呼び方ってことはないよね……?」
姫輝は俯いたまま黙り込んでいる。少し様子を見ていると、姫輝は観念したかのように口を割った。
「お、お父様は『パパ』で、お母様は『ママ』ですわ……」
(ほら! やっぱり!)
今日の朝、ご両親を呼ぶようなことがなくてほっとした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
作者的には、梨琴と姫輝のコメディ的なやり取りが好きです。
今後も楽しんで頂ければと思います。
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